TOPページ > 海外競馬情報 > スキャットダディのサイアーラインの確立は急務(国際)【生産】
海外競馬情報
2017年07月20日  - No.7 - 3

スキャットダディのサイアーラインの確立は急務(国際)【生産】


 ジョン・マグニア(John Magnier)氏率いるクールモアは近年、名種牡馬ガリレオ(Galileo)の成功や、ギニー競走などの優勝で栄光を享受しているだけではなく、相応の不運も分かち合っている。

 2015年12月のスキャットダディ(Scat Daddy 父ヨハネスブルグ)の早世ほど、厳しい痛手はありえないだろう。そのわずか数週間前に、ケンタッキー州のアシュフォードスタッド(Ashford Stud クールモアの米国の拠点)は、スキャットダディの種付料が3万5,000ドル(約385万円)から10万ドル(約1,100万円)に引き上げられると発表していた。

 この引上げは、牝駒アカプルコ(Acapulco)がクイーンメアリーS(G2 ロイヤルアスコット開催)を制し、古馬と対戦するナンソープS(G1)でメッカズエンジェル(Mecca's Angel)の2着に健闘した2015年の暮れに決定された。米国ではダシタ(Dacita)、エルカベイア(El Kabeir)、ニックネーム(Nickname)、プリティーエンクール(Pretty N Cool)などがビッグレースを制し、チリで生産された産駒もチリの競馬シーンで活躍している(訳注:スキャットダディは2009年~2011年にチリで供用され、2013-14年にはチリのリーディングサイアーとなった)。

 スキャットダディはアカプルコの前にもロイヤルアスコット開催で勝馬を出していた。それは2013年ノーフォークS(G2)で優勝したノーネイネヴァー(No Nay Never)であり、同馬はその後モルニー賞(G1)を制してその早咲きの才能を見せつけていた。それ故、たとえ2016年に種付料が10万ドル(約1,100万円)となっても、スキャットダディは米国だけでなく欧州の生産者も引き付け続けると思われた。

さらに、今年のロイヤルアスコット開催では、スキャットダディ産駒は以下の活躍を見せた。

・カラヴァッジオ(Caravaggio)...コモンウェルスカップ(G1)優勝

・レディオーレリア(Lady Aurelia)...キングズスタンドS(G1)優勝

・スーネーション(Sioux Nation)...ノーフォークS(G2)優勝

・コンテパルティロ(Con Te Partiro)...サンドリンガムH(L)優勝

 したがって、種付料がもっと高騰したとしても、クールモアはスキャットダディを全力でサポートし、生産者からすさまじい需要があったことだろう。

 しかし残念なことに、それは無駄な憶測にすぎない。私たちが確信できるのは、クールモアが今後限られた時間の中でスキャットダディのレガシー(遺産)を持続させるために最善を尽くすだろうということである。スキャットダディ産駒がデビューする最後の年となる2018年に、その実力と強さを競馬場で発揮する2歳産駒を、私たちは目の当たりにすることだろう。


注目を浴びる2歳産駒

 米国ジョッキークラブは、2015年に北半球で159頭のスキャットダディ産駒が生まれたと記録している。現在はまだシーズンの早い段階だが、そのうち13頭が出走して7頭が勝利を挙げている。それらの勝馬の中には、ノーフォークS優勝馬スーネーションやコヴェントリーS(G2)3着のムリージョ(Murillo)がいる。

 アルバニーS(G3)3着のテイクミーウィズユー(Take Me With You)は、これまでの2戦において勝鞍が無くそのグループには入っていないが、勝利は時間の問題だろうと思われる。

 法外な価格で購買された2歳産駒もいる。クールモアのMV・マグニア(MV Magnier)氏は昨年のキーンランド9月1歳セールにおいて、後にメンデルスゾーン(Mendelssohn)と名付けられるビーホルダー(Beholder)とイントゥミスチーフ(Into Mischief)の半弟を最高価格の300万ドル(約3億3,000万円)で購買した。また同セールで、ステークス勝馬フールズインラブ(Fools In Love 父ノットフォーラブ)を母とし、後にシーヘンジ(Seahenge)と名付けられる牡駒も75万ドル(約8,250万円)で購買した。

 メンデルスゾーンもシーヘンジも、クールモアの獣医師ジョン・ハーレー(John Halley)氏が生産したスーネーションや、当歳のときにキーンランド11月セールにおいて50万ドル(約5,500万円)で購買されたムリージョとともに、バリードイルで調教される。

 もちろん、スキャットダディ産駒に食指を動かしている購買者はクールモアだけではない。テイクミーウィズユーは、フェニックスサラブレッズ社(Phoenix Thoroughbreds)の代理人ケリ・ラドクリフ(Kerri Radcliffe)氏により、ファシグティプトン社(Fasig-Tipton)の2歳セールにおいて80万ドル(約8,800万円)で購買された。

 デヴィッド・レッドヴァース(David Redvers)氏は、タタソールズ社クレイヴン・ブリーズアップセール(Tattersalls Craven Breeze-up Sale)において、2013年ラウンドタワーS(G3)優勝馬グレートホワイトイーグル(Great White Eagle)の半弟を67万5,000ギニー(約1億277万円)で購買した。このスキャットダディ産駒は現在キングスシールド(Kings Shield)と名付けられ、ジョン・ゴスデン(John Gosden)調教師に預託されている。

 ゴスデン調教師は他にもスキャットダディの2歳産駒を管理する。それは、未出走の牝駒ウエストパームビーチ(West Palm Beach)と牡駒ミスターマラケシュ(Mr Marrakech)、そして6月にニューマーケットで僅差の3着となった牡駒ディチャト(Dichato)である。

 また、ウィリアム・ハガス(William Haggas)、ディーン・アイヴォリー(Dean Ivory)、パスカル・バリー(Pascal Bary)、ミケル・デルザングル(Mikel Delzangles)、サイモン・ダウ(Simon Dow)、リチャード・ヒューズ(Richard Hughes)、エイドリアン・キートリー(Adrian Keatley)、ジャン-クロード・ルジェ(Jean-Claude Rouget)の各調教師も、スキャットダディの2歳産駒を管理する。

 1週間にわたってスキャットダディ産駒が大活躍した結果、その動向が注目されている。種牡馬としての価値が見いだされる産駒がいるとすれば、実際需要の高い種牡馬となるだろう。

 また、ロイヤルアスコット開催以外のレースにおいて、スキャットダディ産駒の繁殖牝馬としての魅力が印象づけられた。6月21日にフランスのメゾンラフィット競馬場でのデビュー戦で圧倒的な勝利を収めたサイレントウォー(Silent War 父ウォーフロント フレディ・ヘッド厩舎)は、スキャットダディの初年度産駒でG1・2勝馬レディオブシャムロック(Lady Of Shamrock)の初仔である。レディオブシャムロックは繁殖牝馬として200万ドル(約2億2,000万円)で購買されていた。


ラストクロップの1歳産駒

 2016年には147頭のスキャットダディ産駒が生まれた。今年セリに上場される模範的な産駒を巡り、かなりの争奪戦が繰り広げられるのは想像に難くない。ダーレーは、クールモアの種牡馬の卓越性を、たとえその馬がすでに他界していたとしても、快く認めないかもしれない。しかし、他の有力な競馬事業体は間違いなく、流行の種牡馬の産駒を出走させたいと思うだろう。

 昨年スキャットダディの当歳産駒について調べた購買者たちは、比較的手ごろな産駒を獲得するかもしれない。昨年のキーンランド11月セールでチャチャマイディー(Chachamaidee)の半弟となるスキャットダディ産駒を75万ドル(約8,250万円)で購買したメイフェアスペキュレイターズ(Mayfair Speculators)でさえもそうだろう。ちなみに同セールで、カラヴァッジオの全妹は62万5,000ドル(約6,875万円)まで競り合われたが、最低購買価格に達しなかった。

 一方、スキャットダディのラストクロップは、産駒ノーネイネヴァーの初年度産駒と一緒に上場されることになる。ノーネイネヴァーはティペラリー州のクールモア牧場で種牡馬入りし、2015年は2万ユーロ(約260万円)、2016年と2017年は1万7,500ユーロ(約228万円)で供用されている。2015年には145頭、2016年には170頭に種付けした。そのうち、それぞれ28頭と34頭がブラックタイプ勝馬だった。

 昨年英国とアイルランドにおいて、ノーネイネヴァーの初年度当歳産駒の平均価格は3万8,409ギニー(約585万円)であった。父スキャットダディがロイヤルアスコット開催で勝馬を送り続けているので、エージェント(馬売買仲介者)と調教師はノーネイネヴァーの初年度1歳産駒に改めて信頼を寄せるだろう。

 そしてノーネイネヴァーが種牡馬としてどのようなチャンスに恵まれようとも、同馬よりレーシングポストレーティング(RPR)が8ポンド上回るカラヴァッジオが、現役引退後にアイルランドあるいは米国どちらで供用されるにせよ、一層大きな支援を受けることは確実である。

 アスコット競馬場にいたクールモアの最高権力者ジョン・マグニア氏は、スキャットダディが"必要としている異系交配"を提供することを認めた。同馬はクールモアで多く繋養されているサドラーズウェルズ(Sadler's Wells)やデインヒル(Danehill)の系統の牝馬との交配にぴったりの血統とのことである。

 クールモアがスキャットダディに寄せる信頼はとてつもなく高い。今後デビューするのは2世代のみだが、意外な才能の宝庫であるこの種牡馬のサイアーラインをしっかりと確立するには大急ぎのレースとなるだろう。

By Martin Stevens

(1ドル=約110円、1ポンド=約145円、1ユーロ=約130円)

(関連記事)海外競馬ニュース 2015年No.50「一流種牡馬スキャットダディ、11歳で急死(アメリカ)

[Racing Post 2017年7月12日「Big week for Daddy」]


上に戻る