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海外競馬情報
2014年06月20日  - No.6 - 1

中国本土に競馬を根付かせる試み(中国)【開催・運営】


 競馬が中国本土に根付くのはいつになるのだろうか?

 長年この疑問に対する答えは、「絶対根付かない」や「多分5〜10年後だろう」といったものであった。

 しかし、5月上旬に香港で開催された第35回アジア競馬会議(Asian Racing Conference: ARC)で行われたプレゼンテーションは、中国大陸の競馬界のリーダー達を少し楽観的にさせるものであった。

 田樺(Tian Hua)氏が5月8日にARCで行ったいつになく率直なプレゼンテーションは、新たな期待を膨らませるものであった。田樺氏は、中国大陸の馬スポーツに責任を持つ中央管理機関である北京の国家体育総局・馬部門(Equestrian Department, General Administration of China)傘下の中国馬術協会(Chinese Equestrian Association)の副秘書長である。

 同氏はこの中で中国本土における競馬発展について正面から取り上げ、「競馬に関する中国と海外先進国との隔たりを出来るだけ早く縮めていきます」と発言した。

 そして「中国馬術協会は中国競馬のために、インフラを整備し、外国の経験から学び、国際協力を促進するために、懸命に努力しなければなりません。中国の競馬発展に手を貸すために世界各地から来る人々を歓迎します」と続けた。

 香港ジョッキークラブ(Hong Kong Jockey Club: HKJC)はこの話を受け、中国本土での大規模な競馬を北京が受け入れるかもしれないという今までで最も強力なメッセージであると述べた。

 HKJCのCEOウィンフリード・エンゲルブレヒト-ブレスケス(Winfried Engelbrecht-Bresges)氏は、「中国競馬の将来について、本日聞いたことほど、単刀直入な報告を聞いたことはありません」と語った。

 答えが得られなかった質問も多くあり、その最たるものは「北京はいつ賭事を伴う競馬を許可するのか?」というものである。もし許可されないのであれば、賭事収入無しでどのようなビジネスモデルが成り立つだろうか?それが唯一最大の論点である。

 過去数十年間において中国本土の競馬場建設に不足はなかったが、そのどれもが生き延びることができなかった。

 数人の発表者は、サラブレッド競馬を組織し始めるために行なった最近の試みはすべて無に帰した"悲しい歴史"であると表現した。

 競馬の運営許可は、通常、さまざまな優先事項や先入観を持つ国、省、地方および市といった行政の迷路を通過しなければならない。

 ARCを後援するHKJCの業務担当専務理事キム・マク(Kim Mak)氏は、「このような中での舵取りは、欧米とは全く違うことになるでしょう」と語った。

 賭事を伴う競馬運営の承認が得られても、商業競馬を支える本質的なインフラがない。獣医サービスは乏しくその質は不確かであり、馬の基礎的治療、競馬場運営および競馬統轄など、一連の任務を担当する人的資源がない。アジア血統書会議(Asian Stud Book Conference)の事務局長である清水恭氏は、「中国の馬主は所有するサラブレッドをわざわざ血統登録することがほとんどなく、そのことが馬の管理をより困難にしています」と語った。

 中国でどのような形の商業競馬が施行されるのか誰にも分からない。一番の望みは、中国の大都市圏での地元競馬開催が成功を収めることと、ゆくゆくは国際競馬へ全面的に参加することだろう。しかし、中央政府からの賭事を伴う競馬施行についての同意を得なければ、今のところスポーツレベルの参加に留まるだろう。国際的な競馬産業のリーダーたちは、中国の商業競馬が賭事収入の無い状態で投資計画、支援体制強化および賞金のために必要となる資金を引き出すことができるのか疑問に思っている。

 IFHA(国際競馬統轄機関連盟)のルイ・ロマネ(Louis Romanet)会長は、内モンゴル自治区のフフホト市で開催された第1回中国馬文化フェスティバル(China Equestrian Cultural Festival)のレース後のセリについて、地元馬主が賭事収入のもたらす賞金を競走馬の購買費用に充てることができないため、失望させられるものであったと語った。

 チャイナホースクラブ(China Horse Club)の活動は、提携関係を通じて支援を得るようにされており、メイダングループ(Meydan Group)による飛行機を使った贅沢なやり方は、経済的に持続不可能な一回限りの取組みだったのかもしれない。

 香港のレースは他国に輸出されており、最近では共同プール方式の賭事が海外で提供されるようになった。香港はブリーダーズカップの賭事を香港域内で提供している。大きく膨れ上がった中国の賭事への意欲は、世界中の競馬にとって大きな経済的後押しとなり、健全な中国の競馬プログラムも、現在揺籃期にある生産界の発展を促すだろう。

 したがって中国競馬の将来についての真の問いはおそらく、「賭事を伴う競馬はいつ中国本土にやって来るか?」ということである。

もし実現すれば、賭事に向けられる中国の経済力は、世界中の競馬産業を大きく変えるものとなるだろう。


各団体の中国市場参入の試み

 中国でのサラブレッド競馬の発展を取り巻く不確実性にもかかわらず、いくつかの団体は競馬における足場を築いたり、中央政府に前向きな変化があった時にすぐ飛び込むことができるよう位置取りを行っている。

・チャイナホースクラブ

 デザートスター社(Desert Star Holdings)が経営しアイルランドのクールモア牧場に支援されているチャイナホースクラブは、昨年9月に内モンゴル自治区のフフホト市で輸入馬による競馬開催を実現させた。チャイナホースクラブは競馬への支援をゆっくりと作り上げていく20年計画を進めている、とデザートスター社のテオ・アー・キン(Teo Ah Khing)会長はアジア競馬会議(ARC)で語った。

 同会長によれば、この計画では、創設時の2010年から2015年末までは競馬拡大への民衆の支持を得るためのネットワーク構築、データ収集そして慈善活動を中心とし、2015年から2020年までは中国馬文化フェスティバルの実施と国際化、そして必要なインフラ開発のための資金を集めることができるような提携関係の収束に業務の中心が移っていく。

 チャイナホースクラブは2013年にいくつかの国際レースに馬を出走させることによって国際的な舞台への第一歩を踏み出した。テオ会長によれば、この取組みはクラブのメンバーが世界最高レベルの競馬を認識するのに役立った。

 またテオ会長によれば、チャイナホースクラブがフフホト市で開催した競馬大会は、世界中から騎手、競馬関係者およびスポンサーを惹きつけたという意味で成功を収めた。しかし、このイベントに出席したIFHAのルイ・ロマネ会長は、レース後に行なわれた輸入馬のセリでは、地元購買者の入札価格がフフホト市まで馬を輸送するのに掛かった費用よりもずっと低かったので失望させられたと語った。


・メイダングループ

 モハメド殿下(Sheikh Mohammed)の援助を受けるドバイ拠点のメイダングループは、4月に中国南西部の成都市で国際競馬大会を開催した。この開催は、出走馬が検疫プロセスを経て中国本土に入出国した初めての競馬大会となった。

 この偉業を成し遂げたメイダングループのプロジェクトマネージャーであるパトリック・ベイカー(Patrick Baker)氏は、次のように語った。「基本的にドバイから全てを持ち出し成都に持ってきただけです。現地で調達したのは寝藁とボトル入りの水だけです。厩務員からレース実況者、役職員および接客係にいたるまで関係者はすべて連れて行きました」。

 4月6日のレースを観るために約4,000人が競馬場に足を運んだが、開催終了後、道具や人員などは全てドバイに送り返された。

 しかし、この開催から1ヵ月が経つが、メイダングループの誰も次回開催の可能性について公に話していない。「メイダンのトップ経営層が何を言うかについて関心がありますが、我々は中国で競馬を発展させたいと考えています」とベイカー氏は語った。

 少なくとも、成都市で行われたレースは地元チームとドバイのチームの間に信頼の足掛かりを築いた。

 この開催において馬の健康面を監督したドバイレーシングクラブ(Dubai Racing Club)の獣医担当理事であるアンソニー・ケトル(Anthony Kettle)博士は、「これは目を見張るような偉業です。私たちは中国に行き、"大成功を収めました"と言うことができます。実際、かなりの信頼が築かれました」と語った。

 ケトル博士によれば、その信頼は当然のように築かれたものではなく、レースの前の週でさえも、馬を出迎えた中国人はスーツとマスクを身に着けほとんど臨戦態勢にあったとのことである。


・香港ジョッキークラブ

 香港ジョッキークラブ(HKJC)のアプローチは大きく異なっており、香港のシャティン競馬場とハッピーバレー競馬場にある既存のHKJCの調教センターを補強するための調教施設拡大という現実的な必要性に基づくものである。この広州の最先端の調教センターは、香港から車で北に3時間ほど行ったところにある。

 2016-17年競馬シーズンの間に完成予定であるこの調教センターには、厩舎、調教施設、馬医療施設および2000mの芝コースなどいくつかの馬場がある。香港も含む認定された無病地域の範囲内とされる予定であり、生物安全(biosecurity)を維持するためのアクセスポイントを管理している。HKJCの競走担当理事であるウィリアム・ネーダー(William Nader)氏は次のように語った。「香港ジョッキークラブと北京政府の間の画期的な合意は、香港と広州の間の自由な馬の輸送を可能にするでしょう」。

 「このセンターは香港の調教センターの混雑を緩和するために必要である一方で、機会が来たら商業競馬運営のための再構築が容易に行えるように計画されています。例えば、この調教センターは、取り囲む緑地の景観を保護するために地下8 mに作られています。HKJCはこの地域において競馬への関心を高めるために看板レースを開催するでしょう」。

 ネーダー氏とHKJCのCEOブレスケス氏は、既存施設と新しい施設の両方の運営に当たる人材育成のために現在香港と中国本土で進行中の訓練プログラムについても強調した。

 ネーダー氏は、「最終目的は、現地と北京の当局者などに対し"香港は素晴らしいコミュニティパートナーである"と訴えかけることです」と語った。

 HKJCは130年間、香港で競馬を運営してきた非営利団体である。香港最大の納税者で、最大の慈善貢献者であり、また最大の非政府組織でもある。

By Robert Kieckhefer


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[The Blood-Horse 2014年5月24日「RACING'S RISE IN CHINA」]


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