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TOPページ > 海外競馬情報 > アスムッセン事件で窮地に立たされる米国競馬界(アメリカ)【その他】
海外競馬情報
2014年04月20日  - No.4 - 5

アスムッセン事件で窮地に立たされる米国競馬界(アメリカ)【その他】


 動物愛護団体PETA(動物の倫理的扱いを求める人々の会)は大西洋の両側で、競馬は廃止されても構わないと考えており、その基本方針を明確にしている。米国のリーディングトレーナーのスティーヴ・アスムッセン(Steve Asmussen)調教師に関する申立ては、扇情的であり、見方が偏っており、その多くが秘密裏に行われたスパイのおとり捜査で得た情報である。

 しかし、米国競馬界が幅広い人気を得ておらず観客が減りつつあり生き残りを賭けて戦い窮地に立たされている現状において、これらの申立てを穏便にすませることはできない。PETAの申立てと7時間にわたる録画を9分にまとめたビデオは、米国競馬界に衝撃を与えた。

 たとえ告発者が信頼されなくても、副次的な影響はすでに甚大なものとなっている。ニューヨーク州とケンタッキー州の競馬統轄機関はこのスキャンダルの調査を開始し、一方アスムッセン調教師はこのたび、今回のPETAのビデオで軽率なコメントをした長年の助手スコット・ブラジ(Scott Blasi)氏と絶縁することとなった。

 この絶縁はブラジ氏に責任を取らせる被害防止対策の意図があるようだが、アスムッセン調教師自身も今年の米国の競馬殿堂入りの候補から除外された。このような状況での除外は同調教師の評判を著しく傷つけるもののようにしか考えられない。その評判は4ヵ月間の隠しカメラによる調査を受けて、動物虐待、不正行為および過度の薬物依存などの多くの違反行為が申立てられたことで危機に瀕している。また所属騎手の1人に“ブザー(buzzer)”として知られている非合法の電気刺激装置を使うよう手渡したことでも告訴されている。

 “疑わしきは罰せず”という風潮がある一方で、おぞましいビデオが添付された“ドラッグと死に晒された競馬(Horse Racing Exposed: Drug And Death)”というタイトルのPETAの告訴を米国競馬界は無視することができない。この申立てにより、多くの報道媒体が悪い噂を広範囲に広めた。

 どうしてこれを真剣にとらえられるのだろうか?アスムッセン調教師自身は公表されたビデオにはほとんど映っておらず、問題となっているのは、秘密調査員とブラジ氏の軽率なやり取りである。ブラジ氏は、管理馬からルイジアナ州の法的限界の750倍もの麻酔薬のメピバカイン(anaesthetic mepivacaine)が検出されたことでアスムッセン調教師が6ヵ月間の調教停止処分を受けた2006年に、同調教師に代って免許保有者となっていた。

 ブラジ氏は汚い言葉のやり取りでずけずけと内情を話したが、米国にはこのような口汚い罵りを取り締まる法はない。より決定的なのは、申立てられた虐待には世界中で獣医師の標準的な習慣として認められているものもあることである。有力オーナーのザヤットステーブル(Zayat Stable)のネロ(Nehro)についての装蹄師とのやり取りがその1例である。

 蹄に慢性的問題を抱えた2011年ケンタッキーダービー2着馬ネロは、1つの蹄に脈拍がなくもう1つにもほとんどないとされていた。下肢、とりわけ馬の蹄で脈拍を感じるという状態は、人間に例えるならずきずきするような痛みを意味し、通常感染症の存在を示すものである。つまり、蹄や下肢に脈拍がないのが正常だ。馬が跛行している場合、脈拍を測ることが最初の診察法の1つである。

 しかしながら、ネロは明らかに痛みを感じており、ブラジ氏が認めるようにおそらく走らせる状態になかった。ブラジ氏はやり取りの中で2013年に疝痛で死亡するずっと前に馬主が引退させなかったことを非難している。このかわいそうな馬は接着蹄鉄で無理やり走らされていたと仄めかされている。

 PETAをいら立たせたもう1つの治療方法は、“腐食薬”を用いた肢への“水疱形成”である。これは実際のところ獣医師がその効果を主張する“焼灼療法”であり、新しいものではない。この治療法は英国で一時禁止されていたが、数人の獣医師がそれを覆した。

 しかし、作られた全体的な米国競馬のイメージは紛れもなく否定的なものであり、それゆえ競馬ファンは競馬の別の面を見せようとし、辛辣な批判がはびこるツイッター上に#FullStoryPETAのハッシュタグ付きでよりいっそう愛情深く馬に接する数多くの可愛らしい写真を投稿している。

 PETAが明らかに偏見を持った一方的な議論をしているので、競馬ファンのこの行動には一理ある。しかし問題はそれらの意見にもある程度の重みがあるので、全くくだらないものとして放置することができないことである。申立ての中で、ラシックス(訳注:フロセミドの商品名でサリックスとも呼ばれる)は十分な理由なしで投与される“競走能力向上薬”と言い表され、馬への鎮静剤の常用は潜在的疾病の兆候を隠してしまい悲惨な予後不良を引き起こすものとされている。

 アスムッセン調教師はほかにも、ケンタッキーダービーの期待馬タピチュア(Tapiture)に騎乗予定のリカルド・サンタナ(Ricardo Santana)騎手に非合法の“ブザー”を渡した件や、最低賃金に満たない賃金しか支払わないようにするために移民労働者の書類を偽造した件などの違法行為の申立てもなされた。

 競馬界は馬の福祉問題について長年徹底的に監視されているので、証拠はいくらでも出て来るだろう。たとえば、2006年プリークネスS(G1)での故障の末にバーバロ(Barbaro)に安楽死措置が採られたとき、馬体に過酷とされるダート馬場を撤去し馬の肢によりやさしいオールウェザーへの大規模な転換へと繋がった。

 ニューヨークタイムズ紙は尊敬を集める世界有数の新聞だが、ここ2〜3年において米国競馬界での違法行為について多くの感情的な調査を行っている。

 アスムッセン調教師の成功は、一点の穢れもないというわけではない。6ヵ月間の調教停止処分だけでなく、米国的な言い回しをすれば、やたらと長い“過剰な軽罪”記録がある。

 しかし今回の場合、PETAだけでなく誰もアスムッセンチームが違法薬物を使用していたと申立てることはできない。どちらかと言えば、彼らの合法薬物への過剰依存が、馬を体力が消耗するまで走らせていることを意味している。米国の競馬場での違法薬物の悪用についてあらゆる議論がなされているにもかかわらず、PETAの申立てはニューヨークタイムズ紙が近ごろ行なった競馬についての調査の核心である。

 米国PETAのイングリッド・ニューカーク(Ingrid Newkirk)会長は、次のように語った。「米国PETAは、立つことも辛い痛みに耐える馬、毎日飼葉にステロイド剤を放りこむひどい習慣、馬を走らせ続けるための無限の鎮痛剤投与サイクル、治療を促し走らせ続けるために化学塗料で水疱が作られている馬を目撃しました」。

 「そして米国PETAは、ニューヨークの優秀な競馬専門獣医師がラシックスが競走能力向上のために使われていることを認めた様子をビデオに収めました。米国競馬界が潔白であると思っていた人々は今や、トップレベルの競馬関係者にとっても調教のメインツールが注射器で、生き延びて引退した馬の多くは壊れた残骸のような扱いをうけているのを目にするでしょう」。

 身の毛もよだつような見出しとプロパガンダビデオは歓迎しがたいが、米国競馬界の薬物に対する放任的な態度に絶望しているのは決してPETAだけではない。

 PETAはそれを“残酷な、競馬産業の標準的習慣”と呼んでおり、それはどのように残酷で標準的かが不明瞭なままであるが、アスムッセン調教師のイメージは凋落した。

 加えて、最近英国で生じたステロイド・スキャンダル問題で教訓を得た上で言わせてもらえれば、この申立てが現在の感情に満ちた状況においてなされたことは、米国競馬にとって最悪の事態であると思える。

By Nicholas Godfrey

[Racing Post 2014年3月24日「Scandal couldn’t have come at worse time for beleaguered industry」]


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