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TOPページ > 海外競馬情報 > 蹄葉炎の幹細胞療法(アメリカ)【獣医・診療】
海外競馬情報
2011年08月05日  - No.15 - 3

蹄葉炎の幹細胞療法(アメリカ)【獣医・診療】


 蹄葉炎の馬を治療する際に獣医師が直面する2つの課題は、痛みを和らげることと、蹄葉状層、蹄壁および蹄底の成長を促すことである。幹細胞療法は、これら2つの課題に解決法を提供すると思われる。

 6月2日〜4日にケンタッキー州レキシントンで開催された北米獣医再生医療協会(North American Veterinary Regenerative Medicine Association:NAVRMA)の第2回年次会議の際、蹄葉炎治療に成功した経験のある開業獣医師のパネルは、この新技術の実用化について説明した。

 レキシントンにあるルード&リドル馬診療所(Rood & Riddle Equine Hospital)の肢病学専門家スコット・モリソン(Scott Morrison)獣医学博士は、慢性蹄葉炎の馬を治療するために外科療法、幹細胞注入および装蹄療法を組み合わせた方法をとっている。同博士は、“シンカー”(蹄壁と蹄骨の間の膜を構成する細胞柱である蹄葉状層が損傷しているために蹄骨を十分に支えられず、蹄骨が蹄被膜内で沈下して、時折蹄骨の先端が蹄底に突き刺さっている馬)の治療の成功例について報告した。

 深指屈腱は管骨と並行し、かつその後部に沿って伸びており、蹄骨の背部に接着している。深指屈腱が蹄骨の背部に及ぼす緊張が、健康な蹄葉状層の保定によって相殺されない場合、蹄骨の先端は下に向かって回転する。これが起きるのは、蹄葉炎が層板状膜に損傷を与えた場合である。管骨中央部で深指屈腱を切除する切腱術は、上述の緊張を和らげ、蹄骨が蹄被膜内でより自然な位置をとることを可能にする。

幹細胞療法
 蹄は、繋と蹄被膜の間の毛の生え際である蹄冠で成長する。蹄葉炎になった馬の場合、蹄冠の収縮、そして蹄葉状層、蹄被膜および蹄底への血行不全が蹄の成長を妨げ、蹄壁の一部に死をもたらすことがしばしばある。獣医師は、死んだ蹄壁を削り取らなければならないが、この際、刺激に敏感な蹄壁の内部表面が露出することになる。

 人間が指の爪を爪床から切り取られるのと同様に、この露出は馬に激しい痛みを与える。獣医分野の多くの人々が蹄葉炎を最も恐ろしい疾病であるとみなすのはこのためである。馬が慢性蹄葉炎を患った場合、刺激に敏感な蹄葉状層の損傷と相まった蹄被膜の不十分な成長により痛みと慢性跛行がもたらされ、馬はほとんどいつも横たわった状態になり体調を崩す原因となる。

 蹄冠に注入された幹細胞は、その抗炎症の特性によって顕著かつ迅速に馬の苦痛を和らげるようである。この他の幹細胞の効果には、幹細胞が蹄葉炎によって破壊されたのと同じ細胞タイプになることと、肢に栄養を与える新しい血管の成長を促すことが含まれる。

 幹細胞はまた、馬体に信号を送り患部の自然治癒力を刺激すると考えられている。

 モリソン博士は、幹細胞の注入を蹄葉炎が発症した肢に限定するため、症状によっては局所浸潤を用いると述べている。肢の上部に止血帯が巻かれ、幹細胞が静脈に注入される。この方法は、幹細胞が循環系を通って患部から移動するのを防止する。止血帯は、幹細胞の注入後およそ25分間、巻かれたままの状態にされる。

 同博士は、ギプス交換および装蹄のし直しのタイミングと合わせて、1ヵ月間隔で馬に対し2,000万〜2,500万個の幹細胞を3回与える。通常、同博士は臍帯の血液と組織から得られたドナー(同種異系)幹細胞を用いる。

 手術と幹細胞療法の後、モリソン博士は馬の肢を繋までギブスで固定し、蹄底を支えるために歯科用印象材(訳注:歯型をとるためのピンク色の粘土のようなもの)を使用する。同博士は、全方向に回転する特別な半円形蹄鉄を接着させるが、これは馬が馬房を動き回っていて肢をねじった際に生じる圧力をなくすことを目的としている。この蹄鉄は、本質的に蹄部を固定し、蹄が邪魔されずに新たに成長することを可能にする。

 モリソン博士は、“シンカー”に幹細胞療法を開始する前は、蹄葉炎治療の成功率は18%であったが、幹細胞療法を開始したことでその成功率はおよそ88%に上昇したと見積もっている。

クーガーの危険
 カリフォルニア州ロス・オリヴォスにあるアラモ・ピンタード馬医療センター(Alamo Pintado Equine Medical Center)の創設者で所長を務めているダグ・ハーセル(Doug Herthel)獣医学博士は、自身の目標は蹄葉炎を和らげるだけでなく、その治療法を見つけることであると述べている。同博士は急性蹄葉炎を治療するために、骨髄由来幹細胞療法、高圧酸素療法、アイスブーツ、緩和ケアおよび栄養補給を組み合わせており、「私たちは、急性蹄葉炎の馬に装蹄療法はほとんど行いません」と述べた。

 ハーセル博士が経験した最も挑戦を要する症例の1つは、クーガーに追いかけられて所有者のもとから逃げ出したアラブ種の野外騎乗馬である。同馬は、摂氏41.6度の炎天下の中、パニックを起こして水も飲まずに24時間逸走した末にようやく発見された。苦しい試練の後すぐに、同馬の四肢すべてに重度の蹄葉炎が発症し、ハーセル博士の診療所に運び込まれた。

 同博士は、「同馬の経過は最悪でした。麻酔をかけることなしには同馬を動かせなかったので、同馬を高圧室に入れることができませんでした」と述べている。

 同馬は、幹細胞治療を受けながら8月16日から12月31日までハーセル博士の診療所の馬房に入っていた。同博士は初期治療として、各肢の蹄冠に1億個の幹細胞を注入した。

 同博士は、「48時間で痛みが著しく緩和され、同馬の肢は回復しているように見えました。その後、新しい角質が形成され始めました」と述べている。

 ハーセル博士は蹄葉炎のアラブ種馬の蹄は最初冷たくて青白く生気がなかったと説明し、最初の幹細胞療法の後、同馬の蹄は温かくなってピンク色になり生気を取り戻し始めたと述べた。

 幹細胞療法は、同馬が不快を示したときに繰り返され、およそ30日間隔で合計3回行われた。
 蹄が新たに十分成長したとき、同馬は木製蹄鉄を装蹄され、蹄底は支えるためにエクイパック(Equi-Pak)でくるまれた。

 ハーセル博士は、治療が成功したことについて、「同馬は、再び野外騎乗馬になれるでしょう」と述べている。

ソーンソング
 ハーセル博士は2010年に、芝のG1競走に2回優勝したソーンソング(Thorn Song)が、重度の腱損傷から回復しつつあった一方で蹄葉炎を発症した際に同馬の命を救ったことで、全米のニュースで取り上げられた。

 馬主のアーメド・ザイアット(Ahmed Zayat)氏の保険会社が指名した開業獣医師は、同馬に回復の見込みがなかったため安楽死を勧め、同馬は人道的安楽死が施されることが承認された。

 ハーセル博士は、ソーンソングの蹄を治し生活の質を回復する全体的な養生法の一環として、蹄葉炎を骨髄由来の幹細胞、高圧酸素療法および栄養補給で治療することで、同馬に最後にもう一度だけ機会を与えるよう保険会社を説得した。

 同博士は2010年に、「たとえ私たちが幹細胞療法を試みたとしても、同馬が回復する見込みは10%もないであろうと考えていました。しかし、幹細胞療法を試みてから48時間で症状は好転しました。痛みと腫脹は劇的に軽減され、また驚くべきことに2週間で蹄が成長し始めました。私たちは感動しました。予想を越えていたからです。今までに見たことのない最もエキサイティングな出来事であったかもしれません。技術は、進歩しているのです」と語った。

 NAVRMAでのプレゼンにおいて、ハーセル博士は自分が蹄葉炎の治療を行ったステークス勝馬の匿名の種牡馬の症例報告を行ったが、匿名にもかかわらず、調教助手によって引き運動させられているときに堂々たる芦毛のソーンソングが飛び跳ねている姿がまぎれもなくビデオのエピローグに映っていた(後にハーセル博士は、ビデオに映っていた馬は確かにソーンソングであったことを認めた)。

 同馬は今、カリフォルニア州コーリンガにあるハリス牧場(Harris Farms)で安楽にかつ尊厳をもって暮らしている。同牧場は、生涯収得賞金が100万ドル(約9,000万円)のステークス勝馬である同馬を保険会社から取得し、2011年の種牡馬リストに加えた。

 2月に馬主のジョン・ハリス(John Harris)氏はハリス牧場のウェブサイトに、「ハーセル博士がソーンソングを治療しようという意欲を示したことは絶大な賞賛に値し、同馬には真の奇跡が起きました」と掲載した。

 同馬が最初に種付けした複数の繁殖牝馬が受胎していることは3月に確認された。

痛みの緩和
 ケンタッキー州ヴァーサイルスのウッドフォード馬診療所(Woodford Equine Hospital)で外科医をしているクリス・ジョンソン(Chris Johnson)獣医学博士は、自分が診察する蹄葉炎発症馬の大部分は、内科治療、外科治療および機械的治療などの他の治療法が痛みを十分に緩和しなかったときに連れてこられると述べている。

同博士は、「X写真ではこれらの馬は健全に見えますが、痛みがあります。私たちは、幹細胞療法で痛みを十分に取り除きます」と述べている。幹細胞療法はまた、蹄の成長を促す効果がある。

 ジョンソン博士は、2010年のNAVRMA会議のときにハーセル博士と行った私的な会話のなかで、慢性蹄葉炎を患っている妻の馬を安楽死させざるをえないのは残念であると述べた。ハーセル博士は、同馬を治療するために同種異系の幹細胞1億個をジョンソン博士に送ることを申し出た。幹細胞治療は当時、慢性蹄葉炎の斬新な治療法であると考えられていた。

 ジョンソン博士は、同馬の両方の前肢に5,000万個の幹細胞を注入した。同馬の肢の痛みがかなり和らげられただけでなく、蹄が再び劇的に成長し始めた。斬新な治療法が馬の命を救った。それ以来、同博士は、慢性蹄葉炎になった多くの馬を幹細胞で治療し、かなりの成功を収めてきた。

 会議の参加者の1人は、蹄葉炎を治療する際に用いるさまざまの方法および特定の治療手順を裏づけるための臨床試験の不足についてパネルに不満を述べた。

 しかし、ハーセル博士は、「臨床試験を行うことのみを目的に馬に蹄葉炎を発症させたいと思う者がいるでしょうか」と述べ、自分はむしろ蹄葉炎がすでに悪化している馬を治療することにより、知識を収集したいと付け加えた。

By Denise Steffanus
(1ドル=約90円)

[Thoroughbred Times 2011年6月18日「Stem cell treatment for laminitis」]


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