
若き伝説の三冠馬セクレタリアトは、バージニア州の農地にある約350エーカー(約141ha)の放牧地を駆け回っていた。この放牧地は、現在、バージニア州の州都圏土地保全団体(Capital Region Land Conservancy : CRLC)が持つ保全地役権により保護されている。
「コーヴ」としても知られているこの放牧地は、ノースアンナ川沿いの低地にある。1936年に創設されたクリストファー・チェネリー氏の有名なメドウステーブルの繁殖牝馬やその仔の育成地として用いられてきた。コーヴの豊かな青草は、1972年のケンタッキーダービー(G1)とベルモントS(G1)の2冠馬リヴァリッジや有名な繁殖牝馬でセクレタリアトの母、サムシングロイヤルといった数々の名馬を育んだ。実際にコーヴはメドウステーブルが「繁殖牝馬を基盤とする帝国」として足場を固めるのに重要な役割を果たした。
2023年にコーヴを購入したエンゲルファミリー牧場のケビン・エンゲル氏の寛大な計らいにより、この歴史的に価値のある放牧地が農地として保全される。
「コーヴを購入して、セクレタリアトが駆け回っていた全盛期の状態に戻すことが、長年の夢でした」とエンゲル氏は語った。「巨大な倉庫、太陽光パネル、データセンター、住宅分譲地といった脅威から農地を保護するのは、私の家業にとって非常に大切です。また、孫たちのためにもアスファルトやコンクリートだらけにならないよう保全することが重要です」。
故ペニー・チェネリー氏(訳注:クリストファー・チェネリー氏の娘でセクレタリアトの馬主)の娘ケイト・トウィーディー氏は、エンゲル氏の功績を称えた。
「家族一同、土地を守るための保全地役権を高く評価しています。ケビンがこの歴史的価値のある土地の管理を引き継ぎ、保全地役権の設定が適切だと判断してくれたことに感謝しています」とトウィーディー氏は語った。「母と祖父もこの件について喜んでくれていると思います」。
CRLC常務理事のパーカー・C・アゲラスト氏は土地保全活動の重要性を説いた。
「我々は、将来の開発から永久的に土地を保護する権利の保有者として、米国内国歳入庁の要件を満たし、またバージニア州の法令に基づいた資格を所有しています」とアゲラスト氏は話した。「土地の所有者は、引き続き土地やその権利を保有しますし、売却することも可能です。ただし、その所有者は、法執行権を有する第三者の非営利土地信託に対して制限権が付与された権利証書を渡すことになるのです。この制限は、一般に開発権を排除することを目的としています」。
「基本的に農地として継続的に利用されるように保全します。今回の件はかなり興味深い事例です。この土地には最良農業土壌と呼ばれるものが多く含まれていることから、生産性の高い農地ですが、繁殖牝馬やその仔だった競走馬が使っていた放牧地であったという歴史的価値もあるのです」。
この放牧地は、キャロライン郡のメドウイベントパークの北側にある。メドウイベントパークもかつてはメドウステーブルの一部だった。同パークはバージニア州フェアの会場であり、バージニア農協が所有している。セクレタリアトの分娩厩舎や牧場創設時の厩舎は、州や国から歴史的建造物に指定されている。
エンゲル氏とコーヴとの深いつながりは、40年前にこの地で農業を始めたことにさかのぼる。同氏はハノーバー郡にあるキャビンヒル農場を本社兼事業拠点として、エンゲルファミリー農場を創業した。事業が拡大してきて、妻のデニース、子どものクリス、ケイシーとサバンナも一緒にコーヴを共有するようになり、家業の成長に貢献している。現在、コーヴはエンゲル氏が所有する2,167エーカー(約877ha)のごく一部を占めるにとどまっている。同農場がバージニア州とノースカロライナ州の21か所で賃借している3万エーカー(約1万2,140ha)からみると、さらに小さな割合だ。こういった土地でトウモロコシ、ソルガム、大豆、小麦、大麦、ライ麦を栽培している。
「(家業が)ただ、農場経営に変わっていっただけです。ケビンは80年代から農業を営んでいます」とアゲラスト氏は続けた。
200以上の地主と取引のあるエンゲル家は、国立公園局やヘンライコ郡からヴァリナ農場やウィルトンといった歴史的な土地を借りて作付けするのに慣れている。エンゲル氏は、自身が農業を営んでいた871エーカー(約352ha)のマルバーンヒル農場をCRLCが保全した際に同協会を紹介され、のちに理事会の一員となった。
エンゲル氏は、2023年の優秀な生産者として、ファームジャーナル誌による年次表彰の最終候補として選ばれた際に、もっと前から農地に投資をしておくべきだったと後悔を口にした。そう考えていたのはエンゲル氏だけではない。米国農業センサスによると、2022年にはバージニア州にある農地のうち33%が賃借されていた。さらに米国農務省(USDA)は、バージニア州にある農場の不動産価値は2023年から2024年の間に10.4%も上昇したと報告している。加えて、USDA農業統計局(National Agricultural Statistical Service : NASS)によると、バージニア州キャロライン郡の天水農地の年間賃借料は1エーカー(約0.4ha)あたり71ドル(約11,005円)だった。
今回の保全地役権により156エーカー(約63ha)の農業用耕地が保全され、そのうち約136エーカー(約55ha)は最良農地または州にとって重要な土壌である。
「エンゲル家は、以前にその土地を所有していた家族の歴史的遺産を引き継いだのです。しかし、保全地役権の観点から、今回のことが意味するのは、何よりも、この土地が永久に現在の農業用地として保全されることを知って人々が安心するということなのです」とアゲラスト氏は語った。
また、この保全地役権によって、190エーカー(約77ha)ある森林地も保全される。バージニア州自然保全・レクリエーション局の自然資源情報検索システムおよびバージニア保全地データベースでは、当該森林地が一般的な保全価値を持つ生態学的中核地域内にあるとしている。
「稼働している農地の保全にケビン・エンゲル氏やご家族ほど、献身的な人はいません。『地球は先祖から譲り受けたものではない。子孫から借りているものだ』ということわざの教えを完璧に理解しているのです。コーヴを保護し、セクレタリアトの故郷を保全したエンゲル氏の寛大さは、将来、何世代にもわたって、感謝されるに違いありません」とアゲラスト氏は語った。
By Capital Region Land Conservancy
(1ドル=約155円)
[bloodhorse.com 2025年12月9日 「Secretariat's Pasture at "The Cove" Forever Protected」]