海外競馬情報 2017年10月20日 - No.10 - 5
使用回数と打つ強度を測定する革新的な鞭(トルコ)【その他】

 イスタンブールは、欧州とアジアにまたがる都市である。そして、そこにあるヴェリエフェンディ競馬場はちょうどそれと同じような様子で、競馬の過去と未来にまたがっている。

 毎年9月初旬にヴェリエフェンディ競馬場で開催されるロンジン国際競馬フェスティバルには、多くの欧州馬が集まる。今年も同フェスティバルは9月2日(土)・3日(日)に開催された。

 ヴェリエフェンディ競馬場は確かに素晴らしい施設である。遠征馬はそれぞれ、少々異国情緒漂うこの競馬場で数日間過ごした後に、力強く成長したように見える。ポリトラックコースはそのレイアウトと乗り心地から、「ケンプトン競馬場のようだ」と評する者もおり、肯定的な評価を受けている。ターフコースは見事な芝に覆われており、暑い気候にもかかわらずよく管理され、この上なく安全である。

 騎手は前検量の前に、裁決委員から鞭を受け取る。一見したところ、その鞭は他の鞭と変わらない。ところが、それはパッド入りの革で覆われた質素な鞭よりも、ずっと技術的に進歩した鞭である。

 鞭には多くの運動センサーが内蔵されている。そのセンサーは、鞭の使用状況についてのデータをマイクロプロセッサに入力する。それは、裁決委員が鞭使用ルールが順守されていることをより正確に見極めるのに役立つ。さて、いったいどのように機能するのだろうか?

 前検量のプロセスにおいて、それぞれ鞭には騎手の情報が入力され、各騎手に合わせられる。レース中、鞭の使用はすべて記録され、打つ強度も測定される。定められた使用回数に達した場合、LEDライトが点滅して騎手に注意を喚起する。

 レース後、検量室に戻り鞭をリーダーに繋ぐと、リーダーはレース中に収集されたデータをダウンロードし、ほぼ一瞬にしてそれを裁決室のコンピュータに表示する。

 この鞭を製作したウィップチップ社(Whipchip)の宣伝用資料によれば、この技術が提供するデータは裁決委員にとって極めて重要になり得る。この技術の力を借りなければ、裁決委員は騎手が鞭を何回使用したかを、見ることができるカメラアングルをもとに割り出すしかない。

 この鞭の使用は、トルコジョッキークラブ(Turkish Jockey Club)が4ヵ月前から取り組んでいる実験の1つである。ヴェリエフェンディ競馬場で騎乗する騎手には、この鞭の使用が義務付けられ、後にトルコの他の8競馬場でも使用するかどうかが決定される。

 トルコジョッキークラブは、これに関する報告書を国内上級裁決委員会に提出する。その後、食料農業畜産省が最終的にこの鞭を採用するか、もしくは他の措置を取るかを決定する。

 トルコでは、ある見習騎手が、疲れ切った馬に過剰に鞭を使用し転倒事故を招いた。この事故がきっかけとなり、"今後鞭をどのように使用していくか"ということについて議論が起きたのである。トルコジョッキークラブのアイベガム・カンボラト(Aybegüm Canbolat)氏は、この新しい鞭が競走馬の安全・健康を大幅に改善すると信じている。

 カンボラト氏はこう語った。「鞭の適切な使用方法は、見習騎手学校で重視されている科目の1つです。騎手は訓練中もしくは追加セミナーを通じて、最善の鞭使用方法を習得します。この鞭は使用回数と打つ強度を測定できるので、馬の福祉における素晴らしい技術革新です。トルコの歴史と伝統から、馬は切り離せません。それゆえ、一般の人々は馬に心を寄せており、馬が鞭で打たれているのを見たがりません。競馬ファンは、たとえ大成功を収めている騎手でも、鞭を使い過ぎた場合は絶対に支持しません」。

 この革新的な鞭は、騎手との協議を通じて設計された鞭が発展したものである。ロンジン国際競馬フェスティバルにおいて、英国から遠征してきたジミー・クイン(Jimmy Quinn)やオイジン・マーフィー(Oisin Murphy)、ジョン・イーガン(John Egan)などの騎手も、この鞭を使用した。クイン騎手とマーフィー騎手はこの鞭の導入についておおむね肯定的な感想を持った。一方、イーガン騎手はトプカピトロフィー(G2)でミスタースカラマンガ(Mr Scaramanga)に騎乗した後に、この鞭に魅せられたことを認め、こう語った。

 「この鞭はすごいと思いました。普段使っている鞭と違いを感じませんでした。最初は本当にうまく機能するか半信半疑でした。ミスタースカラマンガには4回鞭を入れました。そして後検量のときに、データは同じ数を示していました。首を軽く叩いた分はカウントされておらず、本当に打った回数だけが数えられていました。素晴らしいアイデアだと言えるでしょう。なぜなら、競馬を批判する人々に対して、"私たちは鞭の改良に取り組んでおり、鞭を禁止する必要はない"と説得するのに役立つかもしれないからです」。

 このような肯定的な意見はBHA(英国競馬統轄機構)にとって興味深いものとなるだろう。BHAは、この鞭の実験的導入についてトルコジョッキークラブと連絡を取り合っていることを認めた。英国競馬界の役員たちは、この鞭が正式に導入されるときにはトルコを訪れる予定である。

 カンボラト氏はこう語った。「地元の騎手たちはどちらかというとイーガン騎手と同じように感じたようです。騎手たちは最初、この鞭を使用することに気が進まないようでした。しかし、今ではそれが透明性を高めるので、前向きな態度を取っています。裁決委員は、鞭の使い過ぎをすぐに見つけて決定を下せるので、時間の節約になります。この鞭は騎手がどれくらいの強さで鞭を使っているのか測定できるので、鞭を打っているのか、あるいは触っているだけかを区別できます。そして、すべての鞭による接触が電子的に測定されているので、測定エラーも減らします」。

 ロンジン国際競馬フェスティバルは、古風な世界の真ん中で開催されているのかもしれない。しかし、競馬というスポーツに関する限りでは、ヴェリエフェンディ競馬場は科学技術の先頭に立っていると言えるかもしれない。世界中の競馬統轄機関は興味深く見守るだろう。

By Mark Scully

[Racing Post 2017年9月10日「Tradition and technology meet at old crossroads」]