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海外競馬情報
2016年08月20日  - No.8 - 5

競馬に関わる仕事:エージェント(馬売買仲介者)(イギリス)【その他】


 馬をある程度知っていて、"海外旅行"、"顧客接待"、"購買価格からの手数料"といった言葉の響きに魅力を感じるのであれば、将来の職業としてエージェント(馬売買仲介者)を一考するのも良いかもしれない。

 しかし、現実的にはサラブレッド産業では競争が激化しているので、その考えはそれほど魅惑的でも容易なことでもないかもしれない。

 私たちはこの記事を執筆するために、2人の有名エージェントに話を聞いた(以下、エージェントA、エージェントBとする)。彼らは、その経験について話したほか、涙が出るような高額価格で馬を競り落とすこと以外にエージェントはどのようなことを行っているのかについて語った。

 エージェントが順調にスタートを切るために最初に必要とするものは、顧客である。"自分の判断を信じてくれる人々を探す"と言うのは簡単だが、実際には難しい。

 エージェントAはこう説明した。「我々のことを信じて馬を購買するためのお金を託してくれる顧客をつかむことが最初の課題です。顧客があなたに馬を購買させてくれるようになるには、3~4年掛かるでしょう。知り合いのエージェントは皆、名声が確立したエージェントのアシスタントとしてこの職業を始めています」。

 エージェントBはこう語った。「世の中の多くの人々はエージェントをペテン師と見なし、全てを持っていってしまうと考えています。しかし、そのイメージが全体に当てはまらないことは明らかです。エージェントの大半はこの分野での専門家であり、競馬への情熱はかなりのものであると、私は考えます」。

 「すべてが人間関係のもとに成り立っています。スタッフは雇っておらず、まるでパブリックトレーナー(訳注:複数の馬主のために、日当制で調教を行う調教師)のように、何もかも自分でしなければなりません。顧客がどこかに出張するように依頼してくれば、行くしかありません。さもなければ、人間関係を失い、そのうち馬を購買できなくなるでしょう。結果を出すことが一番大事ですが、成功のためには人間関係を良好に保つことが不可欠です」。

 エージェントAはこう続けた。「第二の課題は、信頼できる顧客のために馬を購買することです。セリで馬主の代理で落札してもその代金が支払われないのであれば、深刻なトラブルに巻き込まれます」。

セリに向けての準備

 信頼できる顧客を獲得すれば、その後、セリに向けて準備しなければならない。どのセリもカタログを発行するが、研究すべき上場馬は数百頭にも上る。

 エージェントBはこう述べた。「セリカタログは綿密に調査しなければなりません。単調な作業ですが、優位に立つためには不可欠です」。

 「2~3日休暇をとれば、1ヵ月遅れを取った気になります。常にアクセルを踏み走り続けなければなりませんが、成功したいのであればそうするべきです」。

 そして頻繁に出張しなければならない。

 エージェントBはこう続けた。「セリシーズンが始まれば、英国、アイルランド、フランス、米国を行ったり来たりします。異なるタイムゾーン(標準時帯)を飛び回ることは重労働になり得ます。旅費は自費で結構な額となり、深夜の移動や出張のための時間と労力は負担となります」。

 乗り越えなければならない次の障害は、注文を取りつけることである。顧客を得ることは1つのステップだが、彼らにお金を出させることはまた別のチャレンジだ。

 「注文をもらってセリに行くことはめったにありません。偶然かもしれませんが、突然電話を掛けて来て、"これだけお金があるので、ある馬を買ってほしい"と言ってくる顧客を持ったことはなかったと思います。この仕事を始めた頃、注文を受けることがなかったので、山を張って買うしかありませんでした。地位を確立するために、大きなリスクを取り続けなければならなかったのです」。

 エージェントAは、リスクを取っても結果としてビジネスに反映される確証はないと説明し、こう語った。「優良馬を購買したからといって、その顧客が必ずしも再投資してくれるわけではありません。ある顧客のためにG1馬を購買しましたが、その顧客はその後この馬の件で電話するといつも、何とか話を逸らそうとしました!」

 そしてもちろん、すべての成功の裏には多くの失敗がある。馬が高額である分、非常にがっかりさせられる。

 エージェントBはこう語った。「馬にはいつもがっかりさせられるので、神経が図太くなければなりません。高額な馬を購買して、その馬が良い成績を残さなかったり全く駄目だったりすれば、非常に惨めです。顧客を失うでしょうし、そもそも間違った思い込みをしていたわけですから。失敗した時には、潔く降参すべきです」。

 エージェントAはこう述べた。「誰かのお金で馬を買う時は考え込んでしまいます。その馬が大きなレースを勝った時には快感を覚えますが、顧客のために悪いことをしてしまったと感じてしまう時は最悪です」。

支払いを確実なものにする

 セリで馬を落札した時はいつも、"購買価格とエージェントへの手数料が確実に支払われるか?"というプレッシャーが伴う。大まかなやり方として、エージェントは通常、購買価格の5%を手数料として請求し、有名馬主にはさらに高い割合を請求する。新人エージェントは仕事を獲得するために、より低い割合を請求することが余儀なくされることもあるようだ。

 エージェントBはこう語った。「これらの費用が期限内に確かに支払われるようにすることが、このビジネスの重要な部分です。顧客に裏切られるのは大変厄介なことで、それに対してほとんど何もできません。訴訟を起こすと脅すのはとても残念なことであり、そのようなことをすればさらに信用を失ってしまうのではないかと心配になります」。

 そして年間を通じて、多忙を極める時期があるが多くの時間を持て余す時期もある。

 エージェントBはこう説明した。「干上がってしまった時は正気を保つのさえ困難です。誰もが馬を購買しているのに自分は暇である状況に陥ってしまった時は、いよいよ精神的にこたえ始めます」。

 現実はしばしば、目に見えるよりもずっと厳しいものだ。しかし、この職業には明らかに良い面がある。

 エージェントBはこう語った。「素晴らしい生き方です。固定給がないことで不確実性はありますが、熱心な良い顧客をつかめば実現できることに限界はありません」。

 「自分自身がボスであるというのは素晴らしいことで、世界中の興味深い場所にも行けて、素晴らしい人々に出会えます。それにより、堅実な生き方ができるので、私はとても楽しんでいます」。

 エージェントAはこう付言した。「大学を卒業した時、金融街ではなく競馬界に進むことを決意しました。私にとってこの職業で最高なのは、ビッグレースで優勝する馬を購買する時です。自分がやりたいことをして、稼いでいるのです。自分の職業を楽しむことは、私にとって重要なことです」。

エージェントという職業の概要

必要なもの:開業資金。良い人間関係。

収入:有名エージェントのアシスタントとしてキャリアをスタートさせる時には、1万5,000~2万5,000ポンド(約195万~325万円)。その段階を卒業すれば、成功の度合いで高額収入が見込まれる。

長所:世界中の興味深い場所への出張。素晴らしい人々との出会い。ビッグレースを勝ち続けるかもしれない馬の購買。

短所:長時間の仕事と回収不能金。

By James Thomas

(1ポンド=約130円)

[Racing Post 2016年7月19日「'You must keep taking risks to get established'」


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