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2015年07月20日  - No.7 - 2

ロイヤルアスコット開催が示した競馬界における女性劣勢(イギリス)【開催・運営】


 太ったロック歌手ミートローフ(Meat Loaf)は、かつて“3つのうち2つであれば、悪くないよね(Two out of three ain’t bad 邦題:『66%の誘惑』)”と歌ったが、444のうち僅か2つであるとすれば、全く駄目だろう。これは今年のロイヤルアスコット開催における女性騎手の騎乗が、いかに少なかったかを示している。

 ロイヤルアスコットのような一流開催に欠かせない存在であったヘイリー・ターナー(Hayley Turner)騎手は、今年はクイーンメアリーS(G2)でオッズ33-1(34倍)の伏兵シェイデン(Shaden)に騎乗し、最下位の20着に敗れた。その3日後、見習い騎手のエイミー・ライアン(Amy Ryan)騎手は、ウォーキンガムSにおいて父ケヴィン(Kevin)氏が管理するブレイン(Blaine)に騎乗し、25頭立ての22着となった。

 最近確認したところでは、女性は英国の人口の半分以上を占めている。しかし、今年のロイヤルアスコット開催において、女性騎手は全出走馬の0.45%にしか騎乗してない。競馬は、男女が平等に競える数少ないスポーツの1つであるが、この数字は依然として女性騎手の乗鞍が適切な比率になっていないことを示している。ミートローフが歌っていたのは1970年代であるが、このような数字を目の当たりすると、「英国競馬界は男女平等の取組みにおいて、その頃から殆ど前進していないのではないか」と考えたくなる。

 ハンツマンズクローズ(Huntsmans Close)の放馬により、ウォーキンガムSの発走時刻が遅れた際に、チャンネル4はこの話題について短く触れた。司会者のクレア・ボールディング(Clare Balding)氏は、生中継で生じた空白の時間を盛り上げるために、エイミー・ライアン騎手にスポットライトを当てたのである。彼女は女性騎手の乗鞍が比較的少ないことを指摘しながら、コメンテーターのミック・フィッツジェラルド(Mick Fitzgerald)氏(元障害騎手)に「なぜでしょうか?」と尋ねた。“フィッツィー”は、「分かりません」としか答えようがなかった。そして、「昔から、女性騎手の実力に対する疑念が、なくなった試しはありませんよね」と言った。

 それにしても、この乗鞍数は偏見が根強いことを示している。たとえ、男性騎手に有利な“時代遅れで、力ずくの無学な主張”に賛同する者がいたとしても、極めてショッキングな数字である。ガイ・ケルウェイ(Gay Kelleway)騎手が、スプローストンボーイ(Sprowston Boy)で1987年クイーンアレクサンドラSを制し、競馬史に刻まれてから28年が経過している。彼女が、ロイヤルアスコット開催で優勝した唯一の女性騎手であり続けていることは、信じがたい。私たちは全く前進していないのだろうか?

 「騎手にジェンダーは関係ない」と言う者は、今年の騎手ランキングを詳細に確かめていないはずだ。なぜなら、このランキングによれば、女性騎手の活躍は極めて限られているからである。

 リーディング50位内の女性騎手は、たった1人である。彼女はトップの見習い騎手として、今年ターナー騎手やライアン騎手と張り合い、躍進中のサミー・ジョー・ベル(Sammy Jo Bell)騎手である。16勝をあげ、20位入り寸前である。しかし、厩舎スタッフや若手騎手に女性の割合が高い産業であるのにもかかわらず、50位内に入っている女性騎手はたった1人であることを考えてみる必要がある。

 ベル騎手のほぼすべての乗鞍と勝利は、所属するリチャード・フェイヒー(Richard Fahey)厩舎の所属馬によってもたらされた。このことは、所属厩舎以外の馬に騎乗することが、極めて困難であることを示している。もちろん、多くの男性の見習い騎手にも同様のことが言えるが、より世間に認められた騎手の数字の方が、真実を示しているだろう。

 例えば、2012年にリーディング見習い騎手となったライアン騎手は、3年後の今年は1勝しかしていない。そして、少し前に目に見えない障害にぶつかったように思われる一流女性騎手のターナー騎手とキャシー・ガノン(Cathy Gannon)騎手の名をあげておこう。ターナー騎手は全盛期の2008年には100勝を達成し、年間100勝以上をあげた唯一の女性騎手である。その3年後の2011年、彼女の年間勝利数は88勝であり、ガノン騎手も71勝で大きな差はなかった。その年、ターナー騎手は、ジュライカップでドリームアヘッド(Dream Ahead)、ナンソープSでマーゴットディッド(Margot Did)に騎乗してG1・2勝を果たした。2012年にはアイムアドリーマー(I’m A Dreamer)でビヴァリーDSを制したが、それ以降、G1勝利を収めていない。

 この2名の女性騎手のキャリアに影を落とした深刻な怪我も、問題の一つである。ガノン騎手は苦労して肩の怪我から回復し、ここ数週間は勝鞍を重ねたが、勝つ見込みのある騎乗馬を多く入手することは困難だろう。それでも、状況は良くなりつつある。最近では、6月27日(土)にチェスター競馬場で2勝をあげた。

 しかし、才能ある2名の女性騎手の今年の勝利数には、いささかショックを受ける。長年の友人同士のライバルは、互いに1桁の勝利しかあげていない(公平のために言えば、ターナーは、正式な平地シーズン開幕日である5月2日までに、オールウェザー競走中心に22勝をあげている)。

 いずれの騎手も不満を漏らそうとはしないが、このような男性支配の環境における女性騎手の不利な立場を示唆しても、非難されることはないだろう。女性騎手の状況は、2歩進んで1歩後退しているようだ。あるいは1歩進んで2歩後退かもしれない。

 さらに悪い状況になるかもしれない。結局のところ彼女達は、調教師になるのかもしれないが、女性調教師は調教師ランキングの50位内に一人もいない。

By Nicholas Godfrey

[Racing Post 2015年6月30日「Ascot stat proves it’s two step back for the girls」]


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