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2013年02月20日  - No.2 - 1

付加価値税引き上げで競馬関係者に及ぶ影響(フランス)【開催・運営】


 競馬界は数ヵ月前から騒然としている。競馬における付加価値税率は2012年1月1日にすでに5.5%から7%に引き上げられたが、2013年1月1日からはこれまで適用されてきた割引率が完全に廃止されて19.6%にまで引き上げられる。まず馬主が影響をうけ、進上金に掛かる付加価値税を支払う調教師にも影響が及ぶだろう。一般的に理想的なビジネスモデル(約7万5,000件の直接雇用先がある)として取り上げられるフランスの馬産業、とりわけ競馬界に、時限爆弾のようなこの措置がずっしりとのしかかるだろう。関係者の証言をもとに説明する。


この決定にいたった経緯

 欧州連合司法裁判所(Cour de Justice de l’Union Européenne)が2012年3月8日、2006年11月28日のEU指令が当初予定していた範囲を超えた活動範囲でフランスが付加価値税の割引率を適用しているが、その適用が義務違反であるとの判決を下したのが発端である。この指令は、付加価値税の割引率が適用される商品やサービスのリストを明示している。それによると、食料品への加工に仕向けられる馬や農業生産に利用される馬が割引率の対象となっており、こうした理由での馬産活動に繋がる取引(生産に供用される種牡馬や繁殖牝馬の販売、種付・交配)は、確かにこの適用領域に入る。

 その代り、これら以外の目的の販売や取引は標準税率が課されなければならず、馬主が支払う預託料や受け取る賞金額に影響することになる(下表を参照)。
 

競馬界に適用される付加価値税についての現行条項と予定される変更
付加価値税が掛かる商品とサービス 租税一般法典の条項 現行税率 予定税率
いっさい加工がなされていない農産物:馬が食料品加工に仕向けられるか農業生産に利用される場合に関係する取引。 278条2項 7% 7%
いっさい加工がなされていない農産物:通常馬が食料品加工への仕向けや農業生産への利用に供されない場合に関係する取引。 278条2項 7% 19.60%
調教師自身の所有する馬に競走賞金として競馬統轄機関から割り当てられる金額。 257条、278条3項 7% 19.60%
食肉業者から付加価値税免税対象者への生きた馬の販売。 281条6項 2.10% 2.10%
付加価値税免税対象者への生きた馬の販売(競技用馬、競走馬、乗馬)。 281条6項 2.10% 19.60%
使役労働およびスポーツを目的とした動物の使用権およびこれに要するすべての農業施設の使用権にともなうサービス。 279条(b 6項) 7% 7%


割引率適用で義務違反判決のあったその他の国

 オランダとドイツは、欧州連合司法裁判所の義務違反判決を、2012年7月1日から標準税率の適用により国内法に反映させた。フランスはそれを2013年1月1日から行わなければならない。また2012年11月に、アイルランドも2013年1月初めに決定を表明するよう判決が下った。


大半の馬主が影響を受ける

 大半の馬主にとって、理屈よりも情熱が勝る。平地競走と繋駕競走のいずれも経費回収率(収得賞金予測/預託料)が約50%であるため、馬所有にはあらゆる趣味と同様に経費が掛かることを馬主は心得ている。しかしこの費用の平均値は大きく上昇しており、馬主は優良馬を得る希望をひそかに膨らませている。優良馬とは、平地においても繋駕においても毎シーズン預託料を確実に賄うことができる馬である。珍しい真珠のように、見つけ出すのが難しいことは確かであるが、預託料よりもずっと高い賞金を稼ぎだす素晴らしい優良馬は当然存在する。非常に優れた馬は上場されれば、場合によっては剰余価値を生み出す商品価値を持っている。このような楽しみもたまには見込まれる状況の中で、平地および繋駕の馬主は多くの場合、何の指示も与えず所有馬を調教師任せにして介入しない。馬主たちは事務的なごたごたに没頭することは望まず、毎月自費から預託料を支払っている。このため、彼らは付加価値税分を回収することはできないが、獲得賞金に課税されることはない。

 フランスギャロ(France Galop)は2011年、調教師任せの“不介入”馬主は、4,695の活動口座を持つ全馬主のうち3,614人であり、77%に相当することを確認した。この3,614人の“不介入”馬主の大半は実際少頭数しか所有しておらず、2011年6月時点での所有馬頭数の分布は以下のとおりである。
 

  2010年 2011年
1〜2頭を所有する馬主 1,730人 1,666人
3〜4頭を所有する馬主 449人 425人
5〜9頭を所有する馬主 247人 228人
10〜20頭を所有する馬主 71人 73人
20頭以上を所有する馬主 46人 43人
合 計 2,543人 2,435人

備考:表中の2,435人の合計馬主数と4,695の活動口座を持つ全馬主数との不一致については、数人の馬主が共同で多頭数を所有する場合、そのうちの1人だけが第一出資者として正式に馬主と認定されているためである。


 この表において2010年と2011年の間には注目すべき構造的傾向が見られる。つまり、1年間で馬主数が100人近く減り、4%減となったことである。

 シュヴァルフランセ(Cheval Français:フランス速歩競走協会)は2011年、繋駕競走全体で5,293の活動口座を持つ全馬主のうち“不介入”馬主が3,714人であり、70%に相当することを確認した。ここでも“不介入”馬主は概して競馬界外部の人々であり、ずっと多頭数を所有している競馬界内部の生産者・馬主・調教師で形成される結束の固いチームには入り込んでいない。下表の調査対象は、馬を出走させる際に代表となっている馬主である。
 

  2010年 2011年
1頭を所有する馬主 2,280人 2,220人
2頭を所有する馬主 990人 1,050人
3〜4頭を所有する馬主 830人 880人
5〜10頭を所有する馬主 685人 665人
10〜20頭を所有する馬主 300人 290人
20頭以上を所有する馬主 101人 101人
合 計 5,186人 5,206人

 

馬主の経費

 フランスギャロは2011年の馬産業が馬主から得た収入をもとに、馬主がどれだけの経費を要したのかについて3614人の“不介入”馬主を対象にシミュレーションを行った。その経費はトータルで3億7,200万ユーロ(約446億4,000万円)と評価され、内訳は以下のとおりである。
  

馬購買 1億5,000万ユーロ            (約180億円)
預託料 2億  400万ユーロ (約244億8,000万円)
調教師への進上金 1,800万ユーロ   (約21億6,000万円)
合 計 3億7,200万ユーロ (約446億4,000万円)


 これら3,614人の馬主は、2011年にプレミアム競走(訳注:インターネット賭事統制機構(ARJEL)が認可したフランスの賭事業者が賭事を提供するレース)の出走馬中57%(4万4,460頭)を供給している。獲得した賞金額と手当の総額は1億2,300万ユーロ(約147億6,000万円)に上った。したがって、これと経費で計算すれば、これらの“不介入”馬主の経費回収率は約33%(1億2,300万ユーロ/3億7,200万ユーロ)である。預託料のみに限れば、回収率は約60%である。

 繋駕競走では同年において、3,714人の“不介入”馬主はプレミアム競走の出走馬のうち42%(6万1,140頭)を供給し、賞金の42%を獲得した。これらの“小馬主”の経費回収率は50%を下回り、馬主全体の平均を下回ると考えられている。しかし、繋駕競馬界は、多くの生産者・調教師間で馬の貸し借りがあり、生産者が馬主である場合も多く、馬主と調教師の間の共同事業も盛んであるため、個別グループの経済活動を表す数字はまったく提供されていない。


預託料に対する付加価値税引き上げの影響

 預託料に掛かる付加価値税の7%から19.6%への12.6%の引き上げによる影響は、決して小さいものではない。

 平地競走において、パリ地区と他の地区の平均預託料は月間約1,500ユーロ(約18万円)であり、付加価値税の増加額は約190ユーロ(約2万2,800円)となり、年間では2,200ユーロ(約26万4,000円)以上に上る。“不介入”馬主のうち約50%は全体で年間1億1,500万ユーロ(約138億円)を出費しており、付加価値税増額分が彼らの現在の利益を上回る。また“不介入”馬主の16%にとっては付加価値税増額分が現在の利益の50%〜100%に相当し、付加価値税増額分が利益の50%未満となるのは不介入馬主の33%にすぎない。

 グロボワ(訳注:パリ・ヴァンセンヌ競馬場から30分以内の調教センター)と他の地区の平均預託料が月間約1,000ユーロ(約12万円)である繋駕競走においては、付加価値税の増加額は月間約125ユーロ(約1万5,000円)、年間約1,500ユーロ(約18万円)に上る。“不介入”馬主3,714人のうち25%にとっては、付加価値税増額分が現在の利益を上回る。また、“不介入”馬主のうち12%にとっては付加価値税増額分が利益の50%〜100%となり、付加価値税増額分が現在の利益の50%未満となるのは“不介入”馬主の約50%である。


二重に影響を受ける調教師

 調教師も管理馬が獲得した金額を(繋駕競走と平地競走で異なる労働協約に応じて)従業員に分配するため、手にする進上金(平地競走は14%、繋駕競走は15%)に付加価値税が課されることになる。したがって、進上金に関する取決めが現状のままであれば、付加価値税の引き上げは彼らの取り分を減少させることになる(囲み記事を参照)。しかし一番恐れている結果は、預託料の形で受け取る収入についてである。馬主が2012年夏か秋にすでに馬の購買を終えていれば、危機は2014年から生じるだろう。多くの馬主が所有馬頭数を減らそうとしていることは紛れもない事実であり、これは調教師に直接影響する。調教師が対策を見つけだすにはどうすれば良いだろうか?考えられる手段はほとんどない。調教師は管理馬減少に応じて従業員を減らす、あるいは、顧客である生産者・馬主と協力して頻繁に管理馬を受け入れ続けるかであるが、このシナリオは中期的に危険であると分かっている。現在でも多くの調教師は、多すぎる頭数を預かっているのに、どの事業体も資金難で現金をもたらす預託料が滞りがちなので、財政的な困難を味わっている。

レース、出走馬、国庫および競馬界への影響:すべてに不利

 調教師が馬主からの預託頭数を増やせなかったことで生ずるシナリオは、現役馬が減少し、出走頭数に影響を及ぼすことである。出走馬の層の薄さはファンの関心低下につながり、賭金売上げの減少となって直接的に現れるだろう。賭事客と同様に競馬運営者にとっての理想的なレースは、12頭〜18頭立てのレースである。

 フランスギャロは、プレミアム競走において出走頭数の約10%〜15%が急減すると見込んでおり、これにより賭事売上げは約2億7,000万ユーロ(約324億円)減少しうる。

 繋駕競走においては、出走頭数減少に伴う賭事売上げ減少は約3億ユーロ(約360億円)と見積もられている。

 2つの競馬統轄機関への影響に加え、賭事売上げからの控除による国庫納付金の減少は約6,000万ユーロ(約72億円)、競馬界への還元額の減少は約4,000万ユーロ(約48億円)となるだろう。


希望の光

 国会議員が数日にわたって検討する付加価値税見直しの法案は、12月中旬に元老院を通過する。税率の変更について再度話し合われることがなくても、政府は趣味でやっている不介入馬主の課税上の地位を調整する可能性がある。これは、牧場を持たない生産者に低い付加価値税率を適用した2004年7月の修正税制と同列に扱われる可能性があるためである。

 この方向での主張は、農務省と予算省に対して、フランスギャロのユベール・モンザ(Huber Monzat)事務総長をはじめとする競馬統轄機関のリーダーたちによって展開されており、今後の決定は政治家の手に委ねられている。
 

フランスギャロ、調教師に影響する付加価値税のために先手を打つ

12月13日にフランスギャロのベルトラン・ベランギエ(Bertrand Bélinguier)会長は、フランスギャロの新たな措置実施のため馬主協会・生産者協会・調教師会全体との協定を発表した。フランスギャロは調教師に、賞金の14%の進上金と付加価値税分を直接的に供給する。12月17日の理事会で提案される施行規程のいくつかの規定修正を経て、この措置は適用される。できるだけ早く新たな対策を実施するため、2013年前半に全体的な規程改定に着手することが目標とされている。

  

By François Hallopé
(1ユーロ=約120円)


[Paris Turf 2012年12月15日「Une bombe à retardement et à fragmentation」] 


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