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TOPページ > 海外競馬情報 > ミルクシェイクはなぜ悪いのか(アメリカ)【獣医・診療】
海外競馬情報
2011年10月07日  - No.19 - 2

ミルクシェイクはなぜ悪いのか(アメリカ)【獣医・診療】


 禁止は結局撤回された。かつて当初二級市民として扱われていた女性は、投票権を獲得した。また何年もの間ヘルメットを着用することのなかったホッケーも、はじめは抵抗があったが、すべてのプロのホッケー選手はゲーム中にヘルメットを着用しなければならないことが慣行となった。ルールは、絶えず変わるものである。社会の変化、さまざまな意見、技術の進歩等によって、制定されたり廃止されるルールがあり、また修正され、訂正され、そして影響を受けるルールもある。

 これは、ルールが多くの非常に重要な機能を果たし、また科学と社会がしばしばぶつかり合う競馬というスポーツにおいてとりわけ当てはまる。イギリスのニューマーケットにあるアニマル・ヘルス・トラスト(Animal Health Trust)の比較生理学部の元部長デヴィッド・H・スノー(David H. Snow)獣医学博士は、1993年にオーストラリアで開催された第15回国際栄養学会議で講演を行った。同博士の講演は、“競走馬の運動能力向上補助物:栄養物または薬物(Ergogenic Aids to Performance in the Race Horse: Nutrients or Drugs)”という題名であった。スノー博士は、競馬における一定のルールに関する問題を取り上げ、「馬は、薬物の存在を規制するルールによって定められたさまざまな運動によって競走します。これらのルールは、“公平な土俵”を確保することを目指すだけでなく、馬と騎手の福祉を保護することも目指しています。加えて、勝馬投票が係る場合、ルールは馬の能力を操作するための薬物の使用を防ぐことを目指します。馬主と馬券購入者の保護、そして競馬の財政的安定が維持されるべきならば、馬の能力を操作することの防止は、不可欠です」と述べた。

 競走馬に“ミルクシェイクを投与する”ことまたは“水薬を飲ませる”こと(鼻腔胃管によって行う重炭酸塩の経口投与)が、大部分の競馬管轄機関によって違法とみなされようになってからほぼ10年になる。このルールは主に、競馬の公正を確保する必要性のために生まれた。ミルクシェイク投与の慣行に対する当初の懸念を起こさせた状況、競走馬に重炭酸塩緩衡液を投与する動機となった科学の進歩、特定の重炭酸塩濃度を許容するルールを生みだした経緯および現行プログラムがいかにうまく機能しているかを評価する最近の統計を調べることは、興味深くかつ有益であるかもしれない。他方、競馬にかかわるすべての人々がミルクシェイク投与の禁止に賛同しているわけでないことを認識するのも重要である。

 2011年のプリークネスS(G1)の勝馬シャックルフォード(Shackleford)の調教師であるデール・ローマンズ(Dale Romans)氏は、重炭酸塩投与の禁止に反論して、「重炭酸塩の投与が、もともと持っていない能力を馬に賦与することはありません。それはただ、すでに持っている能力を最大にする機会を馬に与えるだけです」と述べている。

 同氏はまた、管理馬が確実に最善を尽くし願わくば勝つことを後押しできなくなること、そして最も重要なことは管理馬が“懸命に走り、体を健全に維持し、かつ出来るだけ無事にレースを耐え抜ける”よう手助けできなくなることを懸念している。

 ミルクシェイク投与の慣行がいつ始まったかは不明であるが、この慣行は1990年代初頭に競馬執務委員が認識するようになった。ミルクシェイクは、スタンダードブレッド競走で長年にわたり使用されてきたが、サラブレッドでの使用は当初、見落とされていた。カリフォルニア州競馬委員会(California Horse Racing Board)の馬医療担当理事リック・アーサー(Rick Arthur)獣医師は、「大部分の人々は、ミルクシェイクの投与や重炭酸塩の投与を無視していましたが、これは彼らが一般的に2分未満というサラブレッドの競走タイムは投与が重大な問題となるには短すぎると考えたためです」と説明している。

 従来の科学であったならばこの見解を支持したと思われるが、これは科学がまだ証明していないと調教師が考えた事柄でもあった。

 従来のミルクシェイクは、300グラムから500グラム(本質的に重曹1箱分)を2リッターの水と混ぜ合わせることにより作られた。この混合液は、鼻腔胃管を利用してレースの4時間前ないし6時間前に馬に投与された。それ以上多量のミルクシェイクが投与されることは通常なかったが、これは多くの重炭酸塩を摂取した馬が、腸炎と下痢を発症したからである。ただし、この症状は通常、一過性または一時的であり、重炭酸塩が体内から排出されるにつれて解消する。

 このような副作用は、過剰投与は逆効果をもたらし、胸やけや下痢を起こした馬は調教の効果があがらないか、または成績がよくないということに調教師たちがすぐ気付いたため、馬にミルクシェイクは過剰投与されなかった。

 競馬執務委員およびほかの人々が抱いた当初の懸念のひとつは、鼻腔胃管による投与が獣医師以外の者によって不適切に行われた場合、馬が死亡する可能性があるということであった。しかし、大部分の重炭酸塩は、経口寄生虫駆除のために使用されるものとかなり似たコーキングシリンジで投与される経口ペースト状で与えられた。

 アーサー獣医師は、「重炭酸塩をチューブで胃に入れられた馬は、非常に少なかったようです」と述べている。


ミルクシェイクはいかに作用するか

 馬が競走時のスピード(アナエロビック運動 訳注:アナエロビックは伸張運動や筋肉強化で、エアロビックは水泳、歩行運動などを指す)で走り始めると、馬は身体に存在するか、また保存されているすべてのアデノシン三リン酸(ATP)を急速に使い切ってしまう。ATPは、この種の高負荷運動において使用される主な燃料源である。調整、調教および遺伝的特性は、上級馬が下級馬よりも多くのATPを持つことを確実にするが、最終的にATPはすべて消費されてしまう。レースにおいてATPが消費された時点で、馬は保存されているグリコーゲンをグルコース(ブドウ糖)に転換し始める。

 このプロセスは、馬を走り続けさせるための追加のATPを生みだすが、不都合でかつ重大な副作用がある。ATP生成のプロセスは、副産物として乳酸を発生させる。乳酸は、筋肉細胞に蓄積され始め、最初、体は血液中の天然化合物を使用して、増加する酸負荷を緩衡しようとする。しかし、血液は上昇する乳酸濃度についていくことができず、ペーハー(PH 水素イオン濃度指数)、すなわち酸塩基平衡が低下する。筋肉は、その時点で炎症を起こし、固くなり始める。(これは、我々が最高水準で運動するときに感じる“バーン”、つまり筋肉が焼けるような感覚である)。

 馬は疲労すると、歩幅が短くなり、また走る姿が悪くなるにつれて、首の振りが大きくなり始める。馬は走り続けると、さらに衰弱し、スピードを落とさなければならず、さもないと負傷する危険にさらされる。疲労を遅らせるものは何であれ、潜在的に能力を向上させることができる。

 疲労を遅らせることはまた、負傷の防止に寄与することができるが、これは大部分の問題およびかなりの割合の致命的負傷が、馬が疲労しているレースの終了近くに起きるからである。重炭酸塩の投与に賛成している調教師は、血液緩衡が馬を安全に保つことができるのは正にこの時点であると主張している。

 ローマンズ氏は、次のように説明している。「負傷は、レース中に筋肉が疲労し、馬がリンバー・レグ(肢筋肉の弛緩性麻痺)の症状を呈し、四肢を正しく着地できないときに起きます」

「我々が扱う馬、とりわけ上級馬で、筋肉が疲労しているときに走行を止めることを知っている馬は多くいません。これらの馬は、すべての上級アスリートと同じように、筋肉衰弱、疲労およびストレスにもかかわらず競うように調教されており、そのため自らを負傷させてしまうのです」。


科学の遅れ

 ミルクシェイク投与という慣行は、馬の負傷を軽減するのに役立つかもしれないが、多くの人々はこの慣行が結果として馬の勝率を高めることになり、それが問題と議論を生じさせる原因であると感じている。

 スノー博士は、特定の物質が能力向上に資することを証明するのは容易でないと1993年の発表で警告した。同博士は、「数多くの不確定要素があるため、レース結果に劇的な影響をもたらしうる1%の能力変化は、トレッドミル運動試験または競馬場での能力を利用して証明するのはほぼ不可能である」と述べている。

 これは、競走馬への重炭酸塩補給に関して、科学が実際の経験および使用に対し遅れを取った理由であると思われる。

 1990年代初頭に行われた複数の調査は、ミルクシェイク投与について一貫した反復的影響を証明しなかった。

 アーサー獣医師を含む研究者グループは、オークツリー競馬協会(Oak Tree Racing Association)に対し、重炭酸塩補給に関する有用な情報を提供する仕事に取りかかった。

 これらの研究者たちは、2005年6月1日から9月7日までデルマー競馬場とハリウッドパーク競馬場で出走した馬を調査した。この調査には、2,349頭の馬による5,028回の出走を対象としており、ミルクシェイク投与の問題に焦点を当てた当時最大規模の調査であった。ライブ競馬と多数の馬の利用により、有益なデータを得られた。解釈すべき不確定要素は多くあったが、研究者たちは、「馬の能力とTCO2(全二酸化炭素)濃度との顕著な関係が観察された。すなわち、上位3着に入った馬は、それ以外の馬と比較して重炭酸塩の濃度が高かった」と結論した。

 しかし、この特別調査の調査意図のため、研究者たちは原因と結果を限定することができなかった。彼らは、血液中におけるTCO2の高濃度が能力の向上をもたらしたのか否か、またはよく調整された馬、よく調教された馬もしくは能力の高い馬が高濃度のTCO2を持つ傾向があるのか否かを限定することはできなかった。ただし、この調査は、重炭酸塩緩衡液を優れた能力に結びつけることに役立った。

 アーサー獣医師は、「答えが何であれ、TCO2濃度が高い馬は、TCO2濃度が低い馬より上位に入着しますが、状況がどうであれ、おそらく本当だと思われます」と述べている。

 複数の競馬場における無作為検査の結果、重炭酸塩を補給されて、TCO2濃度が通常より高い状態で走った馬の数が10%に達することが判明した。この事態は重要な問題となり、競馬執務委員は、何かが行われなければならないと決定した。ミルクシェイク投与の禁止が提案され、最終的に立法化された。


禁止は良いことであろうか

 TCO2濃度は、絶えず監視されており、ミルクシェイク投与の慣行は実際上、ほとんど排除されている。しかし、潜在的に何が失われたのかを問う人々がいる。

 アーサー獣医師は、「私は、重炭酸塩補給がおそらく多くの馬にとって有益になりうることを確実に理解しており、その点については調教師と同じ意見です。生理学的には、血液緩衡は馬にとってよいかもしれませんが、競馬ファンが保護されること、つまりレースで馬券を的中させて得られるべき本来の結果となることを保証する方法はありません」と認めている。

 ローマンズ氏は、意見を異にしており、重炭酸塩が現行のサリックス規制とかなり似た方法で扱われることが可能であると示唆している。つまり、重炭酸塩の使用を許可し、使用の事実を競走成績データで公表し、かつ馬が摂取しているのは一体何なのかをあらゆる人々に正確に知らせることである。

 同氏は、「我々は、我々が行うすべてのことについて馬券購入者に十分周知すべきです。我々は、馬の福祉を常に第一に考えるべきであり、馬を健康に保つために可能なものは何でも使用することが許されるべきです」と述べている。

 賛成派も反対派も、ミルクシェイク投与が競馬の公正、競馬ファンの信頼および競馬における馬の管理に対し提起する課題と認識している。明確に定められ、かつ容易に検査できる濃度をもって禁止することが最も実施しやすく、かつ管理しやすいシナリオであった。

 しかし、科学は常に進歩し、社会は常に異論を唱え、競馬施行規程の部分的・定期的審査を必要とさせる新たな製品と物質が生まれる。

 スノー博士は、1993年にこのような規制見直しの潜在的必要性を示唆した。このとき同博士は、「科学に基づいた栄養強化剤は、最適なスポーツ栄養剤とみなされるべきだろうか。あるいは栄養強化剤は能力を操作するために使用されうるため、それらは禁止されるべきだろうか」と問うた。
 これらの問題は答えるには困難な質問であるが、行われるべき議論である。

By Kenneth L. Marcell

[Thoroughbred Times 2011年8月13日「So, why are milkshakes bad?」]


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