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2011年07月22日  - No.14 - 2

新しい血統の投入で強化されるロイヤルスタッド(イギリス)【生産】


  カールトンハウス(Carlton House)は、女王陛下がモンジュー(Montjeu)の優秀な産駒ハイランドグレン(Highland Glen)をゴドルフィンに贈ったお返しにモハメド殿下(Sheikh Mohammed)が2009年に女王陛下に贈った4頭の1歳馬のうちの1頭である、ということは今や広く知られている。カールトンハウスはもらった馬にケチをつけてはいけないという良い例である。

 モハメド殿下の方は、カールトンハウスが王室の勝負服を背にダービー勝利に挑むことになるのを喜んでいる。同殿下はその4頭の馬を自身の放牧場から自ら選び出した。もしストリートクライ(Street Cry)産駒のカールトンハウスがこれに報いるならば、同馬は、殿下のものでない勝負服を背負ってダービーを優勝する馬として、元々殿下が所有していた馬の中でラムタラ(Lammtarra)、ニューアプローチ(New Approach)に続く3頭目の馬となるだろう(訳注:カールトンハウスは英ダービーでプールモワの3着に敗れた)。

 カールトンハウスは、女王陛下に贈られた2頭の牡馬と2頭の牝馬の中で最高の馬であった。次に優れていたのは、ピヴォタル(Pivotal)産駒で何度かG1馬となったエスセナ(Escena)の半妹ショウレディ(Showlady)を母とする牡馬プリムソルライン(Plimsoll Line)であった。同馬は2戦したが、まだマイケル・ベル(Michael Bell)調教師のために勝利を挙げていない。

 牝馬の中では、ケープクロス(Cape Cross)産駒でミドルパークS勝馬アマデウスウルフ(Amadeus Wolf)の半妹ユニヴァース(Universe)もベル調教師により管理されているが未出走である。そしてカールトンハウスと同じくストリートクライ産駒であり、バラシア(Barathea)および愛1000ギニー勝馬ゴサマー(Gossamer)の半妹であるカムレット(Camlet)を母とするアバージェルディ(Abergeldie)は、マイケル・スタウト(Michael Stoute)調教師により管理されたあと冬にアンドリュー・ボールディング(Andrew Balding)調教師のもとに送られ、5月初めにウォリック競馬場で出走し3着となった。

 競走の結果がどうであれ、ユニヴァースとアバージェルディは間もなくサンドリンガムの王室所有の放牧場に繋養され、一連の優良繁殖牝馬の仲間入りを果たすだろう。もしカールトンハウスが偶然にも王室の勝負服を誇らしげに示すことになれば、近年勢いのある新しい血統がロイヤルスタッドに注入されているということになるだろう。

 女王陛下の競馬および生産におけるアドバイザーであるジョン・ウォレン(John Warren)氏は、ダービーを目指した準備の中で、女王陛下がどのようにアガ・カーン殿下(Aga Khan)およびカリド・アブドゥラ殿下(Khalid Abdullah)と血統のやり取りを行ってきたかについて述べた。長期的には、これらの繁殖牝馬が間もなく生み出す産駒の質は、ロイヤルスタッドの目標を前進させる可能性がある。

 アガ・カーン殿下との提携は特に進んでおり、今年は立派に育てられた女王陛下所有の3頭の3歳牝馬が輩出する。セットゥミュージック(Set To Music)はベル調教師により管理され、これまでに4戦して2回2着に入線している。セットゥミュージックはデインヒルダンサー(Danehill Dancer)の産駒であり、ザーラ(Zahra)を祖母とする(ザーラは、フランスオークス勝馬ザインタ(Zainta)の祖母でもあり、ザルカヴァ(Zarkava)の3代前の母でもある)ザラバヤ(Zarabaya)が母であるので、セントゥミュージックが勝馬となれば大きな活気づけとなるだろう。これらの牝馬は皆ザーラの母であるプチトエトワール(Petite Etoile)の血統である。
 (訳注:セットゥミュージックは6月11日にドンカスター競馬場で1勝目を挙げた)。

 スタウト調教師が管理するスターヴァリュー(Star Value)はまだ出走していない。デインヒルダンサーの牝馬である同馬は、フランスオークスの勝馬であるシュマカ(Shemaka)を母馬とする。そして、キーポイント(Key Point)もまだ競馬場で目撃されていないが、このガリレオ(Galileo)の牝馬は、G1競走を何度も制したカラニシ(Kalanisi)の半妹を母としている。これらの牝馬は非常に素晴らしい繁殖牝馬となる可能性がある。

 一方、ジャドモント牧場(Juddmonte)には2010年、ガリレオを父とし、プリティフェイス(Pretty Face)を母とする栗毛の牝馬が誕生した。プリティフェイスはレインボークエスト(Rainbow Quest)産駒で輝かしい繁殖牝馬のモデナ(Modena)を母とする。そしてモデナは、エクリプスSとチャンピオンSの勝馬エルマームル(Elmaamul)、ヨークシャーカップの勝馬マニフェスト(Manifest)、オークス勝馬リームズオブヴァース(Reams Of Verse ワールドドミネーションの母馬)、ミッデイ(Midday)の母馬ミッドサマー(Midsummer)の母馬でもある。この新たに生まれた牝馬は、ロイヤルスタッドにおけるもう一つの金の卵を意味する。

 アガ・カーン殿下およびアブドゥラ殿下と英王室との関係がどのように発展してきたかは不明であるが、その関係は確かに、ウォレン氏が10年前に義理の父であるカーナーヴォン卿(Lord Carnarvon)を引き継いで女王陛下のアドバイザーになって以来、王室の一連の繁殖牝馬の発展を補完してきている。

 ウォレン氏が就任して間もない2003年にセリで購買した馬にはアルチュア(Arutua)がいる。同馬は、リヴァーマン(Riverman)産駒で傑出した牝馬オールアロング(All Along)を母とし、サドラーズウェルズ(Sadler’s Wells)と交配しロイヤルスタッドに勝馬ロストインワンダー(Lost in Wonder)を遺した。ロストインワンダーには、ケープクロスと交配して生まれた2歳牝馬およびインヴィンシブルスピリット(Invincible Spirit)との間に生まれた当歳の牡馬がいる。同馬は今年ドバウィ(Dubawi)と交配した。

 ウォレン氏はその3年後、セリでダラルベイダ(Daralbayda)を購買した。同馬は半姉のダリンスカ(Darinska)が仏1000ギニー(G1)勝馬ダルジナ(Darjina)を生んだことからすぐに評価を上げた。ダラルベイダはモティヴェイター(Motivator)の2歳牡馬を世に出しており今年はモンジューと交配した。

 ボニードゥーン(Bonnie Doon)は2006年に購買された。同馬はコルヴェヤ(Korveya)の半姉であるプロスコナ(Proskona)を母とする。コルヴェヤは、クラシック競走を制したボスラシャム(Bosra Sham)、ヘクタープロテクター(Hector Protector)およびシャンハイ(Shanghai)の母馬である。ボニードゥーンはセルカーク(Selkirk)の2歳産駒を世に送り出しており、今年はニューアプローチと交配した。

 2008年にはアナサジ(Anasazi)が続いた。ダンシングブレーヴ(Dancing Brave)とジョリファ(Jolypha)の半妹である同馬は、ドバイディスティネーション(Dubai Destination)の2歳牝馬およびインヴィンシブルスピリットの当歳牡馬を世に送り出している。アナサジの次にはオロール(Aurore)がロイヤルスタッドに入った。このチャンピオン馬アクアレリスト(Aquarelliste)の半妹である同馬はホーリーロマンエンペラー(Holy Roman Emperor)の当歳牡馬を世に送り、今年はダンシリ(Dansili)の仔を身ごもっている。

 ロイヤルスタッドには、ウォレン氏が1歳馬の時に購買した3頭の良血牝馬がいる。モンジューを父とし、パドレポンス(Pas de Reponse)のファミリー出身で2度リステッド競走を制した5歳のエンティスメント(Enticement)のほか、2頭の4歳馬ファシネーション(Fascination)とスターシャイン(Starshine)がいる。ガリレオ産駒であるファシネーションは、ショロコフ(Sholokhov)とソルジャーオブフォーチュン(Soldier Of Fortune)のファミリーの出身である。一方、スターシャインはデインヒルダンサーの牝馬であり、G1を2勝したクタブ(Kutub)の半妹である。

 ロイヤルスタッドの将来は、これらの重要な血統の追加により長年にわたって安泰であるように思われる。もらった馬にケチをつけるどころか、ロイヤルスタッドはカールトンハウスがすでに達成した成果を基にその地位を築いていくことができる。それは静かなる革命とも言うべきものである。

By Julian Muscat

[Racing Post 2011年5月30日「Royal Stud Book enhanced by infusion of new blood」]
 


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