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TOPページ > 海外競馬情報 > 骨折したグローバルハンターの救命手術(アメリカ)【獣医・診療】
海外競馬情報
2010年10月08日  - No.19 - 4

骨折したグローバルハンターの救命手術(アメリカ)【獣医・診療】


 馬主のショーン・ターナー(Shawn Turner)氏とモンテ・パイル(Monte Pyle)氏は、7月4日にハリウッドパーク競馬場において行われたアメリカンH(G2)で、力強い走りをしたグローバルハンター(Global Hunter アルゼンチン産)がテンプルシティ(Temple City)より先にゴールラインに頭を突き出して勝利したとき、歓呼の声を上げた。そしてターナー氏は、自分の周りにできた賑やかな祝福の輪にほんの少し の間、注意を向けた。しかし同氏が芝コースに視線を戻したとき、同氏の顔から血の気が引き、ひざから崩れ落ちた。グローバルハンターは、ゴール直後に骨折 事故を起こしていた。

 ターナー氏は、「私は一瞬、茫然自失しました。馬場に入ったのも覚えていません。ふと気づくと、私は馬場にいて、グローバルハンターの頭をなでたり、鼻 に息を吹き込んだり安心させようとしていました。周りの人々は、私に用心するよう言い、私を馬から引き離そうとしました。しかし、私にはその瞬間を耐え抜 こうとする以外に何の感覚もありませんでした」と述べている。

 ターナー氏、パイル氏そしてA・C・アヴィラ(A.C. Avila)調教師は、厩舎に戻る救急車に同行した。厩舎専属の獣医師が、ジェイドハンター(Jade Hunter)の産駒であるグローバルハンター(7歳)を診察し、残酷な知らせを関係者に伝えた。診断で明らかになったところによると、グローバルハン ターは種子骨を骨折し、また球節を脱臼していた。

 ターナー氏は、「我々は、助かる見込みは非常に少ないと言われました」と述べている。同氏は、グローバルハンターが生き残れる見込みは1%もないと予想した。

 幸いなことに、同馬とその関係者は近年アラモ・ピンタード馬医療センター(Alamo Pintado Equine Medical Center:APEMC)のダグ・ハーセル(Doug Herthel)獣医博士およびそのチームと緊密な関係を築いていた。同博士は、グローバルハンターに対して愛情を持つようになっていた。同馬が故障した というニュースを聞いて、同博士は直ちに馬運車を出動させ、ハリウッドパーク競馬場から約130マイル北西に位置するカリフォルニア州ロス・オリヴォスに ある同博士の診療所に同馬を搬入させた。同博士は、ほぼ真夜中に診療所に到着した。主任厩務員のアルフレード・エスカミヤ(Alfredo Escamilla)氏が馬運車を出迎え、グローバルハンターを診療所に運び入れるのを手伝った。診療所では他の主だった人々が同馬を安定させたり、落ち 着かせたりし、また夜通し世話をした。


種子骨の骨折

 7月5日の午前6時、2009年のエディリードS(G1)に勝利し、これまでに61万1,365ドル(約6,100万円)の賞金を収得しているグローバルハンターの救命手術のために医療チーム全員が集まった。

 カーター・ジュディ(Carter Judy)獣医博士が執刀外科医を務め、ハーセル博士とマーク・リック(Mark Rick)獣医博士が補佐した。3時間に及んだ手術のための麻酔は、キャロライン・スピッツ(Carolyn Spitz)理学士(優等学位取得)兼獣医外科学士によって行われた。獣医専門家、看護スタッフおよび厩務員が補佐するために待機した。獣医師兼装蹄師の イアン・キャンベル(Ian Campbell)獣医博士は、治療を受けた肢にはめられたギブスの高さを補正する目的で、グローバルハンターの麻酔がまだ効いている間に同馬の反対の前 肢に特別の蹄鉄を接着させるため、手術が終わった後、診療所に到着した。

 アヴィラ調教師は同馬の手術の間、見学室から見守りながら寝ずの番をした。

 ジュディ博士は、両方の種子骨の中央体の骨折を露出させるために、グローバルハンターの右前肢を切開した。ハーセル博士は、この中央体の骨折は同馬が競走中に歩様を乱したときに起きたと理論づけている。そして種子骨の骨折が、球節の脱臼をもたらす結果となった。

 ハーセル博士は、この種の負傷における主要な障害は、血行が弱まることと、損傷が激しいために骨に螺子固定を施せないことであると述べている。グローバルハンターの場合は、これらのいずれの状態も現れなかった。

 ジュディ博士は、次のように述べている。「球節を切開したとき、球節は明らかに本来の位置にありませんでした。球節は完全に脱臼していましたが、本当に 救いであったのは出血量でした。出血量を見たとき、肢全体にそれ相当の血液供給がありましたので、努力次第で手術に成功する見込みのあることがすぐに分か りました」。

 「救いであったもう1つのことは、グローバルハンターの骨がいかに強固であるかということでした。管骨と繋骨は、両方とも脱臼していた以外にはそれほど 影響を受けていませんでした。種子骨は完全に骨折し、損傷と脱臼を起こしていましたが、プレートとワイヤーを固定するために必要とした骨は、良い状態でし た。そのため我々は、脱臼していたすべての骨を本来の部位にしっかりした状態で戻すことができました」。


外科治療

 3時間の手術中、ジュディ博士は、ルード&リドル馬病院(Rood & Riddle Equine Hospital)の外科医長ラリー・ブラムリッジ(Larry Bramlage)獣医博士によって開発された球節癒合法およびディーン・リチャードソン(Dean Richardson)獣医博士が、2006年のケンタッキーダービー(G1)に優勝したバーバロ(Barbaro)がプリークネスS(G1)で起こした 骨折を固定させるために用いたのと同じタイプのロッキングコンプレッションプレート(locking compression plate)を使用した。ジュディ博士は、しっかりとした組織治療を行うため、全部で17個のスクリュー、2本のワイヤーおよびロッキングプレートを球節 に差し込んだ。

 ジュディ博士は、リチャードソン博士が丹念に元に戻さなければならなかった粉砕骨に言及して、「グローバルハンターの骨折は、バーバロの骨折とは全く異 なっていました。中央体種子骨骨折により、グローバルハンターは繋靱帯を失い、球節を完全に脱臼していましたが、側副靱帯は無傷でした。我々は、ワイヤー を使用して繋靱帯を再生する必要がありましたが、これは手術のうちで最も困難な部分でした」と述べている。

 グローバルハンターの合計麻酔時間は、手術の準備と麻酔からの覚醒を含めて、4時間であった。その後、同馬は四肢で立っても苦痛はないように見えた。このことは励みになる兆候であり、そわそわした同馬は最初馬房の中をゆっくり歩きまわり、その後落ち着いた。

 


 ジュディ博士は、「患者の素晴らしい心構えは、良い治療と同じくらい重要です。グローバルハンターは、前向きな心構えをしているので、すべてを我々の手柄にすることはできません」と述べている。

 ハーセル博士は、「グローバルハンターは極めて頭の良い馬です。同馬は、ここまで回復するのに自身で気をつけてきました。我々が横にした時、同馬は自身で状況を受け入れたのです。そして4時間の麻酔が終わった時、完全に立ち上がりました」と述べている。

 ターナー氏にとって、グローバルハンターが生き残れる見込みは、手術後に50%に高まったというハーセル博士からの知らせは、G1競走に優勝したときのような感じであった。

 同氏は、「まだ用心する必要はありますが、手術後の経過、精神状態および心構えならびにAPEMCが行ってくれているすばらしい看護によって、生き残れる見込みは劇的に高まっています」と述べている。


継続看護

 7月6日、グローバルハンターはAPEMCの高圧酸素室で行われる6回の処置の最初の処置を受けた。この処置は、同馬の回復とリハビリテーションの重要な部分である。

 馬への高圧酸素療法の先駆者であるハーセル博士は、「現在、血管傷害を治療しているところです。したがって、当該部位への酸素供給を増やすことにより、 治癒が早められます。高圧酸素療法は、腫脹を縮減することと、酸素供給を高めることに役立ちます。高圧酸素療法のもう1つの効果は、抗生物質の作用を増強 することです。グローバルハンターは予防的抗生物質の投与を受けていますが、この投与は同馬が感染症にかからないようにするために非常に重要です」と述べ ている。

 あらゆる手術は感染症のリスクを伴うが、グローバルハンターの骨折は閉鎖骨折であったため、馬場の土やごみが入り込んでくるような傷はなかった。

 ハーセル博士はまた、幹細胞療法の先駆者であり、グローバルハンターの骨髄から得られた幹細胞を継続治療のために使用する。幹細胞は、それらが骨細胞に 成長し、いっそう強固な骨性癒合を形成することを期待して、骨折線に沿って入れられる。骨折を治癒するための幹細胞の利用は、実験的段階にあるが、外科医 の中には幹細胞療法によって種子骨骨折の治癒をより効果的に行っている者もいる。

 ハーセル博士は、治癒に対してホリスティックアプローチを採用しており、このアプローチには十分な栄養摂取および個別的リハビリテーションプログラムが含まれる。

 同博士は、「我々がグローバルハンターについてすばらしいと感じている理由の1つは、同馬の心構えが非常に立派であることと、食欲が旺盛なことです。同馬は、何事も起きなかったかのようにふるまっています」と述べている。

 同馬は2週間ギブスをはめられ、その後支持包帯を巻かれた。

 ハーセル博士は同馬の手術から数日後、「現在、グローバルハンターは馬房で休養しており、外に出て牧草を食べることができます。我々が幸いにも越えたと 考えている最大の障害は、長時間にわたる麻酔の影響で肺炎にならなかったことです。同馬の肺は、超音波診断では良好のようであり、体温は正常です」と述べ た。

 グローバルハンターは、胃腸の状態を良くするためにハーセル博士が考案したサプリメントであるバイオスポンジ(Bio-Sponge)を投与されてい る。同馬の場合、バイオスポンジは、腸が抗生物質療法の合併症として発症することのある大腸炎を防ぐために使用されている。同馬はまた、骨折治癒を促進す るために3倍量のプラチナムパフォーマンス(Platinum Performance)を毎日投与されている。プラチナムパフォーマンスは、競技用馬の骨を健康な状態にするためにハーセル博士が開発したサプリメント である。

 同博士は、「プラチナムパフォーマンスに含まれる高レベルのオメガ-3とケイ素が、骨の治癒を増進します。オメガ-3とケイ素は、腫脹を低減させることと、炎症を少なくすることに役立ちます」と述べている。

 グローバルハンターに生じたような激しい整形外科的負傷の場合、反対側の肢の蹄葉炎が常に懸念されるが、同馬が四肢すべてに同じ負荷をかけようとしているのは、よい兆候である。同馬は治療を受けた球節を原因とする跛行をしていない。

 ハーセル博士は、「グローバルハンターはしっかりと歩き回っていますが、これは非常に重要なことです。もししっかり歩き回っていなければ、反対側の肢が蹄葉炎にかかっている心配があります」と述べている。

 しかし、グローバルハンターは危機を脱出したわけではない。

 同馬は、注意深い監視とゆるやかなリハビリテーションを受けながら、次の2ヵ月間をAPEMCで過すことになっている。競走に復帰するわけではないの で、リハビリテーションは控えめに行われる。リハビリテーションの目標は、種牡馬となることを含むこれからの生活に向けて同馬をできる限りくつろがせるこ とである。


ファンからの心温まるメッセージ

 順調な回復と明るい将来への願いが書き込まれた競馬ファンからのカード、電子メールそして贈り物が殺到している。

 ターナー氏は7月9日、グローバルハンター独自のフェイスブック(Facebook)のページを開設した。同氏によると、そのページの存在を公表しな かったにもかかわらず、開設の2日後にはすでに179人の忠実なファンを集め、その数は急増している。これらのファンはこのページの開設に賛意を示してい る。

 ターナー氏は、「我々は、受け取った好意、祈願および心配のメッセージの量に圧倒されました。そのため、我々はグローバルハンターに関する情報を知らせ るために、情報発信サイトのようなものを立ち上げる気持ちになったのです。競馬コミュニティから寄せられた励ましの言葉は、大変な量になっています。私は これらの励ましの言葉に本当に感動しました」と述べている。

 フェイスブックのページは、グローバルハンターの負傷、手術および回復に関する放射線写真その他の情報に加えて、同馬の最新の状態に関する記事およびビデオを掲載している。

 ターナー氏は、次のように述べている。「グローバルハンターは、ハーセル博士とジュディ博士のあらゆる努力の結果、そして主に馬自身の心構えによって、ここまで回復しましたが、同馬を救える見込みが十分にあることを知って私は本当に興奮しています」。

 「現時点において何が起きるかにかかわりなく、また同馬の運命が神の手にゆだねられていることは分かっていますが、私たちの誰もが、最善を尽くしたこと を誇りに思うことができます。また、グローバルハンターも最善を尽くしていると私は考えます。これは最も重要なことです。現在までのところ、同馬は我々が 想像した以上に見事に頑張っています」。

 

By Denise Steffanus
(1ドル=約100円)


[Thoroughbred Times 2010年8月7日「Saving Global Hunter」]


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