TOPページ > 海外競馬情報 > 欧州司法裁判所が国営賭事独占事業に有利な判決(欧州)【開催・運営】
海外競馬情報
2009年10月16日  - No.20 - 3

欧州司法裁判所が国営賭事独占事業に有利な判決(欧州)【開催・運営】


 欧州司法裁判所(European Court of Justice)は9月8日、長い間待たれていた判決を下した。この判決で、同裁判所は、EU加盟国が詐欺やその他の犯罪を防止する目的でインターネット 賭事事業者に制限を課すことは、EU域内でのサービス提供の自由の原則に抵触しないことを再確認した。


事件の内容

 ポルトガル法は、インターネットを通じた宝くじ、ロトゲーム、スポーツ賭事などを組織・運営する独占的権利を国営の非営利団体に与えている。そうした 中、オーストリアのインターネット賭事業者ビーウィン社(Bwin ジブラルタルの賭事免許に基づいて事業を行っている)が、ポルトガルのフットボールリーグ(La Liga)と提携して賭事サービスをポルトガル国民に大々的に売り込むに至った。しかし、ビーウィン社とフットボールリーグは、違法にポルトガル国民に賭 事を提供したかどで罰金を科されたため、同国を相手取った訴訟をポルトガルの裁判所に提起した。ビーウィン社は、これらのサービスをポルトガル国内で提供 することは域内単一市場創設のためのEU法令に照らして合法である旨を主張した。その後、事件は欧州司法裁判所に持ち込まれたが、同裁判所はビーウィン社 の主張を誤りであるとして退けた。


欧州司法裁判所の判決要旨

 

  • 賭事サービスの提供に国が制限を課すことは、条件付きながらEU法上で合法である。

欧州司法裁判所判決文の抜粋:「しかしながら、当裁判所は、サービス提供の自由を制限することは、それに優る重要な公益上の事由により正当化できるもので あることをここに指摘する。賭事事業分野ではEU域内を通じての統一ルールが不在のため、各加盟国は自由にこの分野での自国の政策目標を設定することがで きるほか、適宜、自国が目指す保護の水準を詳細に規定することができる。ただし、当裁判所は、加盟国が課すことのできる制限は、次の条件を満たさなければ ならないこともここに指摘する。すなわち、(1) 制限は当該加盟国が掲げる目標の達成に相応のものでなければならず、(2) 制限は決してそれらの目標の達成に必要な限度を超えるものであってはならない。最後に、(3) 制限は差別なく適用されなければならない」。

 

  • 犯罪の防止は、市場を制限することの正当な理由となる。
  • 賭事の独占的運営権の付与は、条件付きながらEU法上で合法である。
  • EU各加盟国には、他の加盟国が付与した賭事免許の使用を認める義務はない。

 欧州司法裁判所判決文の抜粋:「…加盟国が、自国に参入するビーウィン社などの民間事業者の他の加盟国での実績−すなわち、それらの業者がすでに、その 本拠国の国内で原則として法的条件や規制を遵守しつつ、インターネットを通じた当該部門のサービスを合法的に提供しているという事実−だけでは、将来自国 の消費者がそうした事業者による詐欺やその他の犯罪のリスクに対して保護されることの十分な保証にはならないと考えるのは、ごく当然のことと認められ る」。

 

  • インターネット賭事は、スポーツ主催者に対する詐欺のリスクを増大させる。

 興味深いことに、欧州司法裁判所は、とりわけブックメーキングに伴う詐欺のリスクの増大を強調して、次のように述べた:「当裁判所はまた、賭事業者が、 自らがその結果に関する賭事を受け付けているスポーツ競技に関して、スポーツ競技自体のスポンサーとなり、またはスポーツ競技への参加チームのスポンサー となることにより、直接・間接に当該スポーツの結果に影響を与えることができ、したがってまた、それによって自らの儲けを増大させることのできる立場にな ることは十分にあり得ると考える」。

 追記:この他にもまだ係争中の事件がいくつかあるが、この判決が国営賭事独占事業を極めて明確に支持していることを考えると、予期せざる大きな影響を与 える判決が今後に出現することはありそうにない。また、国営賭事独占事業は、引き続き相応性と差別禁止の原則による束縛を受けるだろうが、それらの原則が 国営賭事独占事業の存在そのものへの脅威となることは考えられない。

 

By Maurits Bruggink

欧州司法裁判所の賭事市場開放を制限する判決はフランスの追い風となるか?

 欧州司法裁判所は、ポルトガルがオーストリアの賭事企業ビーウィン社に対して宝くじとインターネット・スポーツ賭事の提供を禁止したことを、“正当化で きる”と裁決した。賭事業界には衝撃的な判決であった。フランス政府とフランス場外馬券発売公社(Pari Mutuel Urbain: PMU)は明らかにこの判決に満足している。

 ポルトガルでは、サンタ・カーザ社(正式名称はSanta Casa da Mesirocardia de Lisboa)が国の統制下で、宝くじとスポーツ賭事の独占運営権を有している。ビーウィン社がサッカーのプロリーグの試合を賭けの対象とするインター ネット賭事をポルトガル国民に提供したため、同国政府は多額の罰金を求める訴訟を頻繁に起こした。

 欧州司法裁判所は9月8日、ポルトガル政府の一連の行為を“詐欺その他の犯罪との戦いを目的とするものであり、EU域内でのサービス提供の自由の原則に 抵触しない”という理由で正当化し、ポルトガル政府の立場を是認する判決を下した。これは従来の判例を変更する判決である。従来の判例[プラタニカ (Platanica)判決やガンベリ(Gambelli)判決]は賭事独占を否定するものであった。欧州司法裁判所は、たとえ賭事運営業者が他のEU加 盟国を本拠としその国の賭事免許を有していても、他のEU加盟国はその国民にインターネット賭事を提供する営利目的の企業の活動を禁ずることができると明 白に述べた。したがって、欧州宝くじ協会(l’association des Loteries Europeennes)にとって、この判決は“大勝利”である。

 数週間後(10月7日、8日を予定)にインターネット賭事市場解放法案を国会に提出するフランスにとってこの判決は願ったりかなったりである。フランス 政府は賭事免許の申請と付与に関するルールを決定する際に、この判決を盾にとって強い立場をとることができる。エリック・ヴォルト(Eric Woerth)予算大臣は、この判決がインターネット賭事市場解放法案の強力な味方となることに満足し、インターネット賭事分野においてEU加盟国間にお ける賭事免許の相互承認の原則(賭事業者は1つの加盟国の免許を有していればEU全域で賭事営業が可能になる)を拒否できると確信した。無秩序な賭事開放 がマネーロンダリングの問題を惹き起こすとキャンペーンを展開している“政治家たち”、そして十八番(おはこ)のようにそれを主張してきたシュヴァルフラ ンセ(Cheval Francais: フランス速歩競走協会)のドミニク・ド・べレーグ(Dominique de Bellaigue)会長もこの判決を高く評価するだろう。PMUも、この“予想外の判決は”インターネット賭事市場開放に枠をはめ、調整する機能を果た すので、同様に歓迎するだろう。

 反対に、欧州ゲーミング・賭事協会(European Gaming & Betting Association)に結集し、フランス賭事市場に新規参入しようとしている賭事業者にとっては、この判決は痛手だ。とはいえ、さらに事態の進展を見 守る必要があるだろう。

 

By Francois Hallope


[国際競馬統轄機関連盟2009年9月9日「European Court Ruling in favour of state monopolies」]
[Paris Turf 2009年9月10日「Qui l’aurait parie? L’ouverture se reduit…」]


上に戻る