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2007年06月22日  - No.12 - 5

飛躍する韓国競馬(韓国)【その他】


 静かな朝の国、韓国は世界で次第に頭角を現しつつある。インドや中国のように欧米の脅威となる国とはいえないし、日本とも異なる新しい経済大国だ。大声を上げず、筋肉を見せ付けず、空気を汚染しない。この国は経済成長の目覚しさにおいてスカンジナビア諸国に似ている。国民総生産(GNP)は2002〜2005年に44%増加し、同期間に輸出は77%増加し、輸入は72%減少した。

 韓国は上昇し続ける国であり、それは平地競走についても同様である。

 たしかに、これら後発の経済大国の前途は山をよじ登るようなもので、頂上までロープウェイに乗るのは論外だ。韓国馬事会(Korean Racing Authority: KRA)のイ・ウジェ(Lee Woo-Jae)会長は、その使命を明確に説明した。「商業倫理の問題です。私たちの目標は、透明性のある競走を運営することであり、あくなき収益追求で はありません。“Life and Love with the KRA”が私たちのスローガンであり、社訓でもあります」。

 KRAは1945年に創設されたが、新競馬場の誕生はソウルオリンピックの翌年の1989年であった。オリンピック馬術競技場が建設され、これが現代的施設を備えた競馬場として活用されることとなった。その1年後、ポニー競馬が施行される済州競馬場が開場し、2005年には韓国第2の都市である釜山に3 番目の競馬場が生まれた。

 今日の韓国競馬の開催日数は“多くない”。ソウルで土日のレース、釜山で金曜日のレースが行われるのみで、済州で行われるポニーレース8開催を合わせても、年間150日強の開催日数となる。博戯はいまだにタブーであり、競馬のインフレーションを起こすのは論外である。だから、競馬はテレビ放映されず、一般紙には競馬記事は片隅に小さく載るだけで、競馬場の近くでも勝馬予想がされている新聞は“砂上の蹄の音”のような詩的な名前をもつものが15紙ほどあるだけだ。

 イ・ウジェ会長は「賭事の宣伝は禁止されています。数年前から競馬は他のスポーツ賭事やカジノによる博戯と競争関係にあります。しかしながら、競馬は3 つの競馬場と32のベッティングセンター(この“巨大市場”は5,000人の賭事客を収容できる)を有し、賭博市場でリーダー的存在であり続けています。破産に追い込まれるだろうとか、いつも影で八百長が行われているようだ、などという競馬につきまとう悪いイメージを拭い去ることも私たちの目標です」と説明した。

 ソウル競馬場は世界で最も美しい競馬場の1つだ。2つのグランドスタンド、ハッピービルとラッキービルは7万7,000人の観客の収容が可能だ。2005年には161万8,000人の競馬ファン(1開催平均1万7,000人)が競馬場に訪れた。

 過去に馬主でもあり、現在政治家でもあるイ・ウジェ会長の方針は明確だ。「私たちは非合法な賭事との戦いに取り組んでいます。現在のところ、深刻ではありませんが、深刻になるおそれがあります。控除率は大変高く、賭事客には賭け金の72%しか払い戻しできません。国は法令遵守を強く求めています。例えば、10万ウォン(約1万2,300円)以上の賭事は禁じられています。控除率は上がる一方でした。会長在任中に控除率を25%に戻したいです」

 2005年の売上高は38億7,300万ユーロ(約5,809億5,000万円)であり、これは就業者が余り多くない韓国競馬産業にとっては好業績であった。出走馬1頭当たり平均賞金獲得額は世界2位であり、1レース当たりの平均賞金額5万6,000ユーロ(約840万円)は世界3位で、フランスの約3倍以上である。

 同会長は、「2005年から私たちは韓国で生産・育成された競走馬を優遇しています。2005年に韓国産馬の生産頭数は1,100頭に達しました。今や競走馬の70%が“韓国産”です。現在、その資質を上げることに努めなければなりません」と語った。

 韓国における競走馬の生産・育成の歴史は浅い。2001年には韓国産馬は35%であったが、この数字は5年後には倍増した。

 リュ・スンホ(Ryu Seung Ho)氏は、外国人からはバットマンという愛称で呼ばれているKRAの活動的な幹部の1人である。同氏は私たちにこの“奇跡”について説明した。「輸入頭数の制限はありませんが、購入価格には上限があります。馬主は外国で2万ドル(約240万円)以上の馬を買うことはできません」また、輸入馬は出走が制限されていて全体の30%のレースにしか出走できず、重賞競走にも出走制限があり、重賞8レースのうちダービー、オークス、大統領杯など5レースには出走できない。レースにおいては海外で購入された馬と“国産馬”の違いは大きなものではない。大変深いダートコースでは、タイムは出にくい。1,800メートルの主要競走で、勝馬は1,000メートル1分5秒から1分6秒で走り、最後の600メートルは40秒で走る。これは時速54キロとなる。ダービー記録は1,800メートル1分56秒8である。

 イ・ウジェ会長は、KRAは野望を持っていると述べ、「私たちの競馬を発展させるために国際レベルに達することは必要不可欠ですが、まだ準備ができていません。もちろん、外国馬に開かれたレースを実施するという手段もありますが、それが何の役に立つのでしょう?韓国馬が外国馬と対等に戦えないのでは興味がわきません。現実的になるべきです」と語った。

 しかしながら、KRAは目標を持っている。同会長は、「2008年には韓国と同じレベルの国々が参加できる国際競走の開催を企画します。もし、結果が良ければ、次のステップとして、完全な国際競走を2012年に開催することを目指します」と述べた。

 2012年といえば、第1回ジャパンカップの31年後である。30年前、ヨーロッパは日本の平地競走を嘲笑していた。韓国についても甘くみてはいけない。それでは2012年にソウルで会いましょう。

1頭につき4万ユーロ獲得の期待

 韓国で馬を所有することは、経費と賞金などの手当てを考慮すれば、収益性があるかもしれない。主要レースと一般レースの賞金格差は、あまり大きくない。クラシックレースの1着賞金は25万ユーロ(約3,750万円)であるが、一方で1頭当たり獲得賞金額は平均4万ユーロ(約600万円)である。出走手当 は年間およそ1万ユーロ(約150万円)である。

 しかしながら、KRAは利益追求型の馬主を望んでいない。馬主は10頭以上の馬を所有できない。ソウル、釜山および済州と長水の調教センターでは2,000頭の馬が調教されており、500人の馬主が所有している。

 この状況は、カリスマ性のあるリーダー(日本にとっての吉田善哉氏のような)の出現を妨げている。親愛なるバットマンは質問に対して、「私たちの産業は全く新しいので、吉田氏のような人を持つ段階ではありません」と答えた。観客もまた香港におけるサイレント・ウィットネス(Silent Witness)のような核となる馬を見出すことができない。

 韓国が追随するのは日本モデルだが、日本モデルと香港モデルの違いは顕著である。イ・ウジェ会長は、「私たちは、KRAにとって生産がコストのかかる活動であるとしても、自国産馬による競馬を選択したのであり、この目標に向かって前進すべきだと考えています」と述べた。

野心家の生産者

 KRAは、済州島に大きな種馬場を設置し、種牡馬を所有している。また、生産者から仔馬を購入し、手始めの調教を行った後、すぐに出走できる2歳馬のセリを行う。ここ数年、KRAが購入した種牡馬は、メニフィー(Menifee 1999年ケンタッキーダービー2着馬)、ヴォルポニ(Volponi2004年ブリーダーズカップ・クラシック勝馬)、コメンダブル(Commendable ベルモント・ステークス勝馬)、エクスプロイット(Exploit ストームキャット(Storm Cat)産駒)、ザグルームイズレッド(The Groom is Red シャンペン・ステークス勝馬)、ヴィカー(Vicar 複数のG1レース勝馬)である。アメリカの市場で購入された種牡馬は100万〜300万ドル(約1億2,000万〜3億6,000万円)の間の価格で、その速度よりも均整のとれた体形が重視される。

 KRAは60頭ほどの種牡馬のうち26頭を所有している。生産者は最多で9回無料で種付けができる。生産者は所有している繁殖牝馬を済州島に送り、種付けするが、その際に希望種牡馬リスト(3頭まで)を提出する。種馬場の獣医チームは、繁殖牝馬の発情や種牡馬の余裕をみて交配を決定する。

 2006年、現地のトップ生産者の1人であるセ・クォンカン(Sae Kwon Kwang)氏はオーストラリアからデインヒル(Danehill)の繁殖牝馬を12万ユーロ(約1,800万円)で購入した。同年、フサイチペガサス(Fusaichi Pegasus)の牝馬3頭、グランドロッジ(Grand Lodge)の牝馬4頭、テールオブザキャット(Tale of the Cat)の牝馬4頭などを含む129頭の繁殖牝馬を購入した。2006年の繁殖牝馬の購入頭数は、外国産(208頭)が韓国産牝馬(159頭)をはじめて 上回った。

 需要が供給を上回っているので、韓国ではサラブレッドの売買が盛んである。2006年3月のKRA主催のセリでは、2歳牡馬97頭のうち79頭が購入された。フランスのディダイム(Didyme)の産駒が7万2,000ユーロ(約1,080万円)で購入されたのを筆頭に、平均購入額は2万5,000ユーロ(約375万円)だった。

騎手:素晴らしい職業

 およそ50人の騎手はすべて韓国出身である。

 韓国の天才騎手、41歳のパク・テジョン(Park Tae Jong)騎手は1,000勝以上の記録を持つ。2006年には2位の騎手の2倍にあたる120勝をあげ、8回目の最優秀騎手となった。騎手たちは、朝の調教と騎乗料も含めて1ヵ月2,000ユーロ(約30万円)で調教師と契約しており、十分に生計を立てている。進上金については、彼らの取り分は6.15%でパク・テジョン騎手は2006年に20万ユーロ(約3,000万円)以上を獲得している。

 すべての騎手が国中から採用され、厩務員のための養成コースもあるソウル競馬学校で養成される。教官の大半がオーストラリア人である。報酬を目当てに集まる騎手候補者は多い。上位30名の平均年収75,000ユーロ(約1,125万円)である。韓国の最優秀女性騎手であるウォン・エイ(Won Ae Li)騎手は2年目のシーズンで8勝をあげ、約4万5,000ユーロ(約675万円)を受け取った。26歳の女性にとっては良い収入だ。

 イ・ウジェ会長は「私たちの目標は騎手の質を上げることですが、それを達成するためには国際化しなければなりません。しかし、韓国の法律は外国人に就業機会をあまり与えません。韓国の騎手もあまり競争を望んでいません。オーストラリア人騎手が釜山競馬場で騎乗しようとしましたが、ボイコットされました」と説明した。

By Franco Raimondi
(1ユーロ=約150円)

[Paris Turf 2007年5月10日「Quand la Coree (du galop) s’eveillera…」]


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