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2007年06月08日  - No.11 - 2

チャーチルダウンズとマグナ・エンターテインメントが提携(アメリカ)【開催・運営】


 最大のライバル関係にあったチャーチルダウンズ社(Churchill Downs Inc.: CDI)とマグナ・エンターテインメント社(Magna Entertainment Corp.: MEC)の最高経営責任者が最近の会合で際に撮られたスナップ写真が、“昨日の敵は今日の友”という痛烈な皮肉を見事に表現していた。

 写真の左側には、先ごろMECの最高経営責任者に就任したマイケル・ニューマン(Michael Neuman)氏がコカコーラを口にして写っていた。また、同氏から数フィート離れたところには、CDIの最高経営責任者になってまだ1年も経っていない ロバート・エヴァンズ(Robert Evans)氏が座り、ペプシを飲んでいる姿があった。

 一方はコーク、他方はペプシ。北米における二大競馬場運営者であるCDIとMEC間のかつての対立関係は、チャンピオンの座を争う主要な炭酸飲料の壮絶な闘いに似ていた。

 しかし、対立時代は過去のものとなった。競馬界の巨大企業であるCDIとMECは、博戯業界のいくつかの分野において依然として競争関係にあるが、競馬界の大部分を一挙に再編成する可能性のある共同事業を立ち上げた。その共同事業とは、3月に発表され衝撃を与えた、トラックネット・メディア・グループ (TrackNet Media Group)による競馬映像の共同利用を含む事業提携である。

 1990年代末〜2000年代初めの競馬場買収の全盛期は、遠い過去のものとなった。全盛期には、CDIとMECが傘下競馬場を増やすために10億ドル(約1,200億円)の資金を費やし、競馬場の買収劇を繰り広げたブームがあった。

 役員会議室で互いに相手会社を中傷しているとのうわさは日常的に流布していたが、躍進する二大帝国の様子を外部から傍観する競馬場所有者の陰口も同じように流れていた。

 その当時、MECとCDIを率いていたのは、それぞれフランク・ストロナック(Frank Stronach)氏とトム・ミーカー(Tom Meeker)氏であった。ストロナック氏は、MECの創始者でかつ現会長であり、著しい発展を遂げた自動車部品会社の経営者でもある。同氏が最近数ヵ月間不思議なほど沈黙を守っているのは、おそらく同氏が会長を務めるマグナ・インターナショナル社(Magna International Inc.: MII)がクライスラー社(Chrysler)の買収に関心があるとの報道がされたためであると思われる。一方、ミーカー氏は、長年CDIの最高経営責任者を務め、昨年8月にエヴァンズ氏にその地位を譲って引退した。

 あるベテランのジャーナリストによると、現在の共同事業は、当時は誰にも想像しえないものであった。

 昨年発行された「優等企業経営者: フランク・ストロナック氏は、いかにしてカナダの最高所得者になったのか」は、ストロナック氏に無断で発行されたもので、その一部は匿名のMECの元幹部(大半は、MEC退社の際に秘密保持契約に署名したと言われている)から集められた情報に基づいて書かれている。

 著者のウェイン・リリー(Wayne Lilley)氏は、「CDIとMEC間の共同事業は、5年前に立ち上げるべきでした。ストロナック氏とミーカー氏は、共同事業の実現に常に努力していました。ミーカー氏は株主に対してとても保守的でしたが、ストロナック氏は株主のことを気にせず、すべての事柄を支配していました」と述べている。また、リリー氏はMIIの歴史的大成功を批判的に見ている一方で、MEC発展の背後にあるストロナック氏の動機に疑問を呈している。

 トロントのグローブ・アンド・メール紙(Globe and Mail)に週1回掲載される経済欄“経営報告(Report on Business)”に長年寄稿してきたリリー氏は、「MECの幹部社員の意見は、CDIと争ってばかりいるのは馬鹿げたことだし、MECとCDIが協力すれば双方が利益を上げることは十分に可能である」と述べている。

 リリー氏は、MECとCDIはニューヨーク競馬協会(New York Racing Association: NYRA)などほかの競馬関係者とも軋轢があったと考えている。NYRAは、当時衣料品会社の幹部で馬主のバリー・シュワルツ(Barry Schwartz)氏が率いており、その後破産状態に陥ったが、そのNYRAは半世紀にわたり運営してきた実績をもとに、ニューヨーク競馬の運営権の入札者に名を連ねている。

 リリー氏は、「MECとCDIはそれぞれ競馬界を支配しようとしていましたが、その方法について意見を異にしていました。しかし、最終的にMECとCDIが協力するメリットがありました」と述べている。

 同氏はさらに、「しかし、ストロナック氏は、協調路線ではなく競争路線を選んだのです。つまり、負けず嫌いなのです。したがって、同氏は必要以上に長い期間をかけて闘いを続けました。現在、同氏は競馬産業の支配はMECだけではできないこと、できたとしても費用がかかりすぎること、そしてCDIと協調する方が競馬業界にとって有意義だと考えたようです」と付け加えた。

 MECの経営危機は公然の秘密であり、あまりにも多くの経営上の問題がありすぎて列挙できない程だ。MECの経営問題は先月発表された218ページに及ぶ2006年度年次報告書に詳細に述べられている。増えつづける赤字と困難な闘いがMECに重くのしかかっている。MECの赤字は、過去4年間だけで合計約4億ドル(約480億円)に達している。

 営業収益を確保するために、MECはいくつかの重要な競馬関係資産および関連する娯楽関係資産・開発用資産を売却した。これらの売却にはMIIとの取引のほか、MECの親会社でストロナック氏が支配するMIデベロプメンツ社(MI Developments Inc.)との取引が含まれている。

 MECの年次営業報告書は、前期の営業収益について、「営業収益には不動産の売却が含まれているが、不動産売却の余地はすぐになくなるので、当社の将来の営業収益とキャッシュフローは減少することになる。・・・当社は、余剰不動産の売却から利益を得ることができるが、売却が進めば、利益がいずれゼロになると予想している」と、厳しい状況を述べている。

 独立監査役による“企業継続性の認定”(これは証券取引委員会への提出が義務づけられている)には、“たびたび営業損失および運転資金の不足”が生じており、このことによりMECの企業継続能力について“かなりの疑問”が生じている旨記述されている。

 継続事業体たる企業とは一般的に、当該企業が継続的に活動するために必要な人的・物的資源を有することを意味する。ストロナック氏と関連企業からの支援の歴史を考えると、MECに破産が起きる可能性は少ないだろう。

By Ryan Conley
(1ドル=約120円)

〔The Blood-Horse 2007年4月21日「Strange Bed fellows」〕


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