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2007年01月12日  - No.1 - 4

馬に対する脂肪酸の効果・前半(アメリカ)【獣医・診療】


 馬の管理者の多くは、馬に脂肪を与えることの効果について少なくとも何かしら聞いたり読んだりしたことがあるだろう。市販の高脂肪食は簡単に入手でき、高脂肪食を与えられて調教された馬のスタミナや耐久力の向上を証明する研究情報も同時に伝えられている。

 脂肪の効果を示す数多くの研究が行われている。例えば以下のようなものがある。

  • 1993年、テキサスA&M大学(Texas A&M University):食餌に脂肪を加えることにより、体の維持に必要なエネルギーに何の影響も与えることなく、消化にともなう総熱産生量を14%減少させ、無脂肪食に比べて運動のためにより多くのエネルギーを利用できることを証明。
  • 1990年、テキサスA&M大学:高脂肪食により、スタートダッシュ時の筋肉グリコーゲンの利用効率が高まり、最大運動時のために筋肉グリコーゲンが残るので、その結果耐久力が高まりかつ筋肉疲労発現が遅くなる。
  • 1986年、D.F.マクマイケン(McMiken)博士:高脂肪食を与えられた馬は、脂肪を与えられなかった馬に比べて、一定の心拍数でより速く走ることと、および血漿乳酸濃度の著しい上昇が始まるまでの走能力が増大することを発見。
  • 1988年、エクワイン・サイエンス・アップデート(Equine Science Update)誌:脂肪添加食(脂肪10.5%添加)を与えられた馬は、心拍数が160/分に達するまでに約35分間速歩で走ることができたが、脂肪を添加されない食餌を与えられた馬は、わずか20分で心拍数160に達した。
  • 1993年、ヴァージニア・テック(Virginia Tech)社:個々の馬について所定の調教を行いつつ、一定の脂肪食給与効果を得るための期間はほぼ11週間であることを証明。

 しかし、最近の研究の重点は、脂肪サプリメントとしてどのような油脂が良いのかに置かれている。

 油脂には、動物性と植物性がある。魚油と生物プランクトン油は、最も一般的な動物性油脂である。植物性油脂として、コーン油、綿実油、亜麻仁油、大豆油、ヒマワリ油およびカノーラ油を挙げることができる。

 油脂は同量の固形の澱粉系飼料と比べると、利用可能エネルギーを約2.5倍含有している。これは、馬の食餌を計画する上で、少量でより多くのエネルギー供給を可能にする。エネルギー生成量から見ると、すべての油脂は同等であるが、エネルギーに関してだけ言えば、カノーラ油がコーン油より優れている点は何もない。しかし、油脂は体内において他にも必須の役割を担っているため、馬にとって優れている油脂とそうでない油脂が存在する。

 油脂の各分子は、脂肪酸分子3つとグリセロール分子1つを持つ。その製品が馬にとって良いものか悪いものかは、さまざまな油脂の特異な脂肪酸組成によって決まる。また脂肪酸が最新の話題に取り上げられているのは、油脂が代謝と身体機能に特別に関係していることが明らかとなってきたからである。

 すべての脂肪は、脂肪酸とりわけオメガ3脂肪酸とオメガ6脂肪酸を特定比率で含有している。これらの分子がこのように名づけられているのは、その構造のためである。オメガ6脂肪酸は、二重結合と呼ばれる特別の結合が、分子の第6原子と第7原子の間にある。オメガ3脂肪酸は、二重結合を第3原子と第4原子の間に持つ。重要な原子と二重結合の配置は、分子全体の機能と作用を決定する。

 馬は2種類の必須脂肪酸を必要とするという点において特異である。馬の体は、これらの脂肪酸を生成できないため、馬はこれらの脂肪酸を飼料から摂取しなければならない。実際、すべての動物にはそれぞれ必須脂肪酸があるが、必要量と比率はそれぞれ異なる。馬に必須の2種類の脂肪酸は、リノール酸(linoleic acid: オメガ6脂肪酸)とリノレン酸(linolenic acid: オメガ3脂肪酸)である。馬の場合、オメガ6脂肪酸とオメガ3脂肪酸の正しい比率は、およそ5対1である。

 トウモロコシや燕麦といった穀物の割合が高い食餌は、オメガ6脂肪酸の比率が高い。綿実油、ヒマワリ油およびベニバナ油も高い比率のオメガ6脂肪酸を含んでいる。オメガ6脂肪酸は一般的に、オメガ3脂肪酸より安定している。オメガ6脂肪酸は加工に耐え、オメガ3脂肪酸に比べて安価でかつ入手しやすい。こういったことから大部分の馬用穀物は高い比率のオメガ6脂肪酸を含んでいる。

 牧草と乾草は、およそ2%ないし3%の脂肪を含んでいるだけであるが、かなりの量のオメガ3脂肪酸からなっている。米糠と大豆油もオメガ3脂肪酸の比率が高い。

 植物由来脂肪酸のうちオメガ3脂肪酸が最も多く含まれているのは、亜麻仁油である。この濃縮オメガ3は、アルファリノール酸(alpha-linoleic acid: ALA)と呼ばれている。

 魚油は、最大のオメガ3脂肪酸源であり、オメガ6脂肪酸に対するオメガ3脂肪酸の比率が最も高く、EPAとして知られるエイコサペンタエン酸 (eicosapentaenoic acid)と、DHAとして知られるドコサヘキサエン酸(docosahexanoic acid)を含有している。DHAとEPAは、ALAを転換することで馬体内で生成できるため必須ではないが、さまざまな生理機能で利用されており、馬の体にとって非常に重要である。

 魚油(たとえばタラ肝油)は、一般的に馬(および人)の口に合わない。したがって、魚油は体が必要とする脂肪酸の大きな供給源になりうるが、魚油が馬の食餌に使用されることはめったにない。

脂肪酸の効果

 馬は、牧草を摂取しながら進化してきたため、オメガ3脂肪酸の比率が高い食餌を食べて発達してきたことになる。人間は、これらの牧草を濃厚飼料に取って替えた。したがって、人に飼われている馬の食餌は、オメガ6脂肪酸の比率が高い。この食餌変化の問題は、高レベルのオメガ6脂肪酸の悪影響を証明する研究によって明らかにされる。

 脂肪酸は一般的に、細胞膜の維持とプロスタグランジン(prostaglandins)の生成を担っている。プロスタグランジンは、次のような作用の物質である。

  • 炎症反応を抑える。
  • 赤血球が体組織へ酸素を運ぶのを助ける。
  • 血管の収縮と拡張を促す。
  • ホルモンの合成を助ける。

 プロスタグランジンの中には、これらのさまざまな組織に効果的に働き、体の機能を助ける作用のあるものがある。一方プロスタグランジンのなかには、この同じ組織に悪影響を与え、体組織に有害なものもある。どのタイプのプロスタグランジンが優れているかは、最大量を占める脂肪酸のタイプおよびオメガ3脂肪酸とオメガ6脂肪酸の比率で決まると考えられている。

 オメガ6脂肪酸は炎症反応を促進する影響するプロスタグランジンの生成を促す傾向があること、およびオメガ3脂肪酸は炎症反応を抑制するプロスタグランジンを生成することが研究によって証明された。

 とりわけ、オメガ6脂肪酸の一種であるアラキドン酸(arachidonic acid)は、馬体全体の細胞膜に存在する。これらの細胞膜がウイルス、細菌性の細胞内毒素またはアレルギー粒子といった炎症物質によって刺激されると、トロンボキサンA2およびプロスタサイクリンと呼ばれる特殊なプロスタグランジンが生成される。これらの物質は、血管壁を不安定にし、水腫や浮腫の原因となる。オメガ6が誘発するプロスタグランジンは、痛覚反応の閾値を低下させ、また血栓を引き起こす血小板凝集を誘発する。痛み、腫脹および発赤は、炎症の典型的徴候である。

 オメガ3脂肪酸は、細胞内毒素、ウイルス粒子およびアレルギー抗原にさらされると、それぞれ異なる方法で代謝される。この種の脂肪酸によって生成されるプロスタグランジンのタイプ(トロンボキサンA3など)は、活性抗炎症因子であり、細胞膜を安定させ、血管の拡張を促し、かつ血小板凝集を防止する。これらは、痛みと腫脹を軽減し、通常の機能に戻るために体が必要とする反応である。

サプリメントとしての利点

 オメガ3脂肪酸を馬に補給する利点を立証する多くの研究が発表されている。細胞にオメガ3含有量が増えることは、外傷や毒素による攻撃に対する反応をより安定させる。オメガ6脂肪酸に対するオメガ3脂肪酸の比率を高くすると、オメガ6脂肪酸とその代謝産物による悪影響を4分の1まで低下させる。

 レイニング用の馬(reining horses 訳注:手綱で馬を操作する技術を競うウエスタン馬術の競技)を使った研究で、大豆添加サプリメント(オメガ3脂肪酸の含有率が多い)を与えると、コーン油(オメガ6脂肪酸)を与えられた馬に比べて、運動後における炎症反応が低下することがわかった。調教または競走による激しい運動は、筋肉の細胞損傷と継続的な筋肉炎症を引き起こす。低レベルの痛みでも、調教の強化や継続の妨げとなり、最大限の結果を出すことができなくなる。食餌にオメガ3の含有量が多ければ、馬のこのような筋肉痛は軽減する。

 亜麻の種子(オメガ3脂肪酸)を多く含む食餌を摂取する馬は、そうでない馬と比べた場合、皮膚障害が少なくなり、また皮膚疾患と皮膚アレルギーが減少したことを多くの研究が証明している。

 ある研究者は、慢性炎症と免疫反応低下との相互作用に関する研究を始めた。オメガ3脂肪酸を多く与えて炎症反応を軽減することは、相互作用としての免疫力強化効果によって、健康増進に実際に役立つことが示されている。

 サザン・ステーツ・フィーズ(Southern States Feeds)社で馬の栄養を担当するマーティ・アダムズ(Marty Adams)博士は、「オメガ3脂肪酸の効果に関しては、十分に知られていないので、あらゆる馬がオメガ3脂肪酸の補給を必要とするのかどうか、あるいは有効な結果を得るためにはどの程度の量が必要なのかを推奨しにくいのです」と述べている。同社を含む多くの飼料会社は、製品中のオメガ3脂肪酸の濃度を増やしており、栄養強化飼料は炎症疾患が進行する恐れのある馬に与えられることを目的としている。

 アダムズ博士は、「穀物の割合が高い食餌を与えられている馬、牧草が十分にない草地で飼育されている馬、被毛の少ない馬またはアレルギー体質の馬、激しい調教を受けている馬、輸送または競走でストレスがかかっている馬および関節炎、蹄葉炎、疝痛または腸炎といった病気にかかっている馬あるいはこれらの病気にかかる恐れのある馬などに対しては、オメガ3脂肪酸高レベル給与の効果が確実に得られると思います」と述べている。

海外競馬情報 第2号に続く

By Kenneth L. Marcella, D.V.M. and Denise Steffanus

〔Thoroughbred Times 2006年10月14日「The skinny on fatty acids」〕


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