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2018年07月12日  - No.26 - 3

管理馬を無意識に禁止物質に晒す可能性について注意喚起(アイルランド)[獣医・診療]


 アイルランドの調教師たちは、「厩舎付近でレクリエーショナルドラッグ(訳注:快楽を得るために使われる化学物質。マリファナ・コカイン・LSDなど)が使用されれば、馬が薬物検査で陽性反応を示すリスクを高める」との注意喚起を受けた。

 アイルランド競馬監理委員会(Irish Horseracing Regulatory Board:IHRB)は、薬物検査での陽性反応が急増したことを受け、すべての調教師に対して注意喚起を促す1枚の通知文を配布した。

 アイルランド調教師協会(Irish Racehorse Trainers Association)の会長であるノエル・ミード(Noel Meade)調教師は、この通知が広く行き渡っていることを歓迎した。その通知は、厩舎内で小用を足すことが二次汚染の可能性を高めることも警告している。

 IHRBのアンチドーピング担当主任のリン・ヒルヤー(Lynn Hillyer)博士が送付したこの通知文はこう始まる。「私たちは目下、競走後検査における禁止物質の陽性反応の増加について取り組んでいます。それゆえ、皆様の管理馬から陽性反応が出るリスクを最小化するために、繰り返し次のアドバイスを行いたいと思います」。

 そして、こうアドバイスされている。「禁止物質を含む可能性のある物を識別し、管理馬がその物質に晒されることのないように細心の注意を払うことで、二次汚染のリスクは低下させられます。馬の近くでの喫煙や飲食は、カフェインもしくはテオブロミン(訳注:アルカロイドの1つ。カカオの種子中に含まれる)のような禁止物質に管理馬を無意識に晒す可能性があります」。

 「人間による薬剤やドラッグの使用も、問題を引き起こしかねません。調教師はスタッフたちに対し、残留物がどれだけ簡単に伝播するかを認識させるべきです。また、(1) 薬剤による治療を受けているスタッフが馬に餌をやるときには手袋をはめることを義務付ける、(2) スタッフが厩舎内で小用を足すことを禁止するなど、適切な対策を講じる必要があります」。

 IHRBのCEOデニス・イーガン(Denis Egan)氏は6月初め、禁止物質の陽性反応が急増しているが、それは故意によるものではないと述べた。しかし、2018年はまだ中間時点ではあるが、その陽性反応の件数は2017年の1年間の件数を上回ることを認めた。

 陽性反応は、2012年と2013年にはそれぞれ1件報告されただけだったが、過去3年間は毎年5件報告された。IHRBは今年2月、50万ユーロ(約6,500万円)を支払って、長年続いていたリムリックのBHP研究所(BHP Laboratories Ltd.)との契約を解消した。同研究所は、アナボリック・ステロイドのメタンドリオールの誤った陽性反応を報告し、その検査能力には懸念が持たれていた。

 それ以来、競走当日検査、ポイント・トゥ・ポイント競走を施行する際の薬物検査、競技外検査で採取された検体は全て、ニューマーケットのLGC研究所に送られている。イーガン氏は2週間前に本紙(レーシングポスト紙)に対し、IHRBはすでに今年の陽性反応が2011年の7件に届くと推測していることを告白していた。今年はこれまでで、比較的害のない陽性反応が2件報告されている。そのうち1件は旧体制の検査で、もう1件は新体制の検査で確認された。

 ヒルヤー博士は現在、レクリエーショナルドラッグに関するガイダンス(指導書)を用いて、調教師に潜在的な落とし穴を気付かせようとしている。これは、2月にリングフィールド競馬場でウォークインザサン(Walk In The Sun ジェレミー・ノセダ厩舎)が優勝した後にコカイン代謝物の陽性反応が出たことを受けて作成された。

 リーディングトレーナーに輝いたことのあるミード調教師はこのガイダンスについてこう語った。「レクリエーショナルドラッグが原因ではないことを願っていますが、調教師たちに留意すべき情報を継続的に提供していくのに役立つならば、このガイダンスは有益です。過去数年間に原因を説明することのできない検査結果がありました。誰もどうしてそのようなことが起こったか説明できませんでした。その状況を考えるとこのガイダンスは助けになるだろうと考えています」。

 「陽性反応の件数が増加しているのは心配なことですが、今回限りのことになるかもしれません。そうなることを望んでいます。個人的には、アイルランドで馬への禁止薬物使用が問題になることはないと考えています。しかし、緊張感を持たなければなりません。誰もが公平な条件で活動することを望んでいます」。

 ガイダンスには次のことが記されている。(1) 休薬期間(withdrawal time)・検出期間(detection time)・消滅期間(stand-down time)の区別、(2) 適切な品質管理がされていないサプリメントの使用、(3) オンライン購入ができる未承認薬の使用、(4) 競走当日の使用が禁止されている薬物の投与。またガイダンスは、出馬投票した馬に懸念がある場合は、選択的薬物検査を受けられることを調教師たちに知らせている。

 ミード調教師は、陽性反応が報告された2頭の管理馬を好例として引合いに出した。1頭目はベリーウッド(Very Wood)である。同馬は2015年、テンアップノーヴィスチェイス(G2 ナヴァン競馬場)優勝後に、禁止物質カプサイシン(トウガラシの辛味成分)の陽性反応が出たために失格となった。

 2頭目はシャンポリオン(Champoleon)である。同馬は、2015年のパンチェスタウン競馬場での未勝利ハードル戦で優勝した。しかしかなり時が経った2017年に、カフェインの陽性反応のために失格が確定した。IHRBはこの事案を、規則を順守するために取った合理的な予防措置と見なし、ミード調教師に過怠金を科さなかった。

 ミード調教師は6月25日、これらの陽性反応についてこう語った。「シャンポリオンから採取した検体の中に最少量のカフェインがありましたが、どこから混入したのか証明できませんでした。ベリーウッドについては、私たちが与えていたサプリメントが原因だったようです。そのサプリメントには、ラベルには記載されていませんでしたが、コショウが入っていました」。

 英国では、BHA(英国競馬統轄機構)が全国調教師連合会(National Trainers Federation)と一緒に取り組み、無意識に禁止物質に晒されることについてのガイダンスを調教師たちに配布している。

 BHAのロビン・マウンジー(Robin Mounsey)氏はこう語った。「BHAは直接連絡してくる調教師に対しても、個別にガイダンスを配布しています。私たちは調教師に対するガイダンスを常に改訂しており、最新版と通知を随時提供しています」。

By Richard Forristal

(1ユーロ=約130円)

[Racing Post 2018年6月25日「Trainers warned that recreational drugs in yards can prompt equine positives」]


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